高知よさこいお魚祭
四国 高知県
2005年7月26日~8月1日・8月10日~8月13日
四国、初上陸!
九州から四国に行くにはいくつかの選択肢があった。
当初、僕が考えていたのは宮崎の日向から高知を経由して那智勝浦、川崎に行くフェリーに乗ろうと思っていた。
ところがこれが旅を出発した6月10日の一週間後、18日に運行が閉鎖されてしまうことがわかった。慌てて色々と調べてもらうと、大分県からずいぶんとフェリーが出ている事がわかったので安心したが、当初は「あぁ・・・こりゃ四国はムリかな・・・」と、まで思ったものだ。
いっそのこと、豊後水道をカヤックで渡ってしまうかとも思ったが、正直そんな気合いはなかったのである。
「できる」と思った事はやるが、少しでも「んー、どうだろ・・・」と思っている事をやるのは冒険、勇気ではなく「無謀」だ。僕はそんな無謀な事をやるオバカさんではないので、無理はしない。ただし自分が「できる」と思った事は人に何を言われてでもやると思うけど。
一番安そうな方法が、大分県の佐伯(さいき)から高知県の宿毛(すくも)まで行くフェリーである。もっと安い愛媛の八幡浜に行く選択肢もあったが、とりあえず高知に着いてしまえば何とかなるだろうと言う楽観的考えでこの航路に決定した(後で聞いたら八幡浜の方が都合が良かったらしい…)。
宮崎駅から青春18切符で延岡まで。そこで大分行きに乗り換えて、佐伯に向かう。延岡行きの電車は学生などが多く、ほとんど座れなかったが大分行きの電車はガラガラで、余裕で座る事が出来た。
夕方、6時に佐伯駅に到着。
歩いて10分ほどで港に到着し、ターミナルに荷物を置き、駅前のジャスコで夕飯を買い港に戻る。最近はどこにでも大型のスーパーがあるので便利だ。とくに閉店間際に行くとそのまま食べられる惣菜や弁当が半額とかになっているので野宿する時には非常に助かる!コンビニよりも安くすんで便利だ。
7時半から乗船開始とあったが、徒歩で乗船するのは僕しかいなくて、7時には乗せてもらえた。
8時出港。豊後水道は台風が来ているにもかかわらず、ほとんど揺れることなく3時間で高知県、宿毛港に到着した。
初上陸、四国!と、いっても昨年小豆島に行った時にちょっとだけ高松には上陸した事があったのだが、今回の方が四国目的なだけあって、感極まる物がある。
ところが時間は午後11時。深夜である。暗くて何も見えやしない。
地図で探した公園にテントを張らしてもらおうと思ったが、歩いていくとかなり遠い。面倒臭いので港の端っこの方にマットを敷いてそこでテントも張らず寝る事にした。港で話すカップルがうるさかったが、星がきれいで雨も降らず安心して寝た。
翌朝、港のターミナルにあるトイレで顔を洗い、朝食を食べる。
行き当たりバッタリできた高知だが、一応コネクションはあったのである。高知大学の大学院生であるエソ君がはるばる高知市から迎えに来てくれるというのだ。 電話をすると昼前くらいになってしまうと言う。この時はまだどの位離れているかよくわかっていなかったので、「仕方ねぇなー」と、歩いて宿毛駅の方まで散歩に行く事にした。
途中、コンビニにも寄ったりしたが、釣具屋にも寄る。
さすが、本場土佐だけあり、釣具屋にはたくさんの土佐打ちのチョキ銛先と、二又ヤス先などが所狭しと置いてある。いろいろ物色しているとエソ君から電話。もうすぐ着くというので急いで港に戻る。
エソ君は沖ノ島に行くターミナルで待っていた。事前に何回か電話をしたり、メールのやりとりはした事があったものの、実際に会うのは初めて。今回の高知旅行はほとんど彼がエスコートしてくれる事になっていた。
挨拶もそこそこに、ここから近い足摺岬近海で潜ることにした。そこはサメが多い海域で有名なのだが、まずは高知に来たらそこを潜らなきゃダメだと言われ、ビビリつつ潜る事に・・・。 あいにく、海はけっこううねっていた。なにしろ直撃は免れたものの、南方の海上から関東の方に向かった台風によって海はかなり荒れていたようで、透明度は聞いていた高知のものとは思えない、10mあるかないかといった感じである。海岸にはアカウミガメのストライクが打ちあがっていた。まだ新しいので今回の時化でうち上がってしまった物だろう。
カメラを持って潜水。透明度が悪く滅入る。
魚の感じは屋久島に似ていたが、屋久島よりは内地の海に近くなってきた感じはある。ヒブダイやイロブダイなどの熱帯系のブダイに交じり、標準和名アオブダイが異常に多くなる。またアイゴの仲間も熱帯系のものから普通のアイゴ(こっちで言う「バリ」)が現れた。九州の海を見てないので何とも言えないが、だんだん黒潮の影響はあるとはいえ、北上している事が実感できる。
高知県の南西にある沖ノ島、柏島は日本の沿岸で一番魚類相が厚いという報告がある。黒潮からやって来た熱帯系の魚と、本来黒潮とは関係なくそこに生息する温帯域の魚が混在しているからだろう。 確かに伊豆諸島などに比べてもムチャクチャな魚類相で、普通のカワハギとソウシハギが同じ場所にいるのである。
ここに来て、初めて馴染み深い魚を確認。イシダイだ。屋久島では近似種のイシガキダイは見たがイシダイは確認してなく、ここに来てやっとあのストライプ模様のにくい奴を見ることができた。何とか写真におさめる。
しばらく写真を撮ったあと、戻って銛に持ち替えて再び潜水。ところがこういう時に限ってイシダイは寄ってこない。バカみたいに寄ってくるコロダイの小さい奴を思わず突いてしまいエキジット。 上がるとエソ君も上がっており、60㎝くらいのハマフエフキを突いていた。 んー。恥かしい・・・。
足摺岬を後にし、エソ君の運転で高知市内に戻る事に。 昼頃に出たのだが、高知市内のエソ君の家に着いたのは夕方近かった。道路を走りながら、まさかこんな長距離ドライブになるとは思わなかった。標識を見ても「高知市内103㎞」とか書いてあるのである!
「まぁ、慣れましたね」
エソ君は極めて事務的に答える。
「田舎なんで遊ぶところないから金は食費と交通費だけで済むんです。」
「ちょっと車飛ばせば魚がいる海がすぐあるのだから文句は言えませんよ」
若干の笑みを浮かべてそういわれると、運転してもらっている僕としてはなんだか申し訳なくなってきたが、本人も楽しんでいるようだからいい事にしようと一人納得する。
「Bajauさんに会いたがっている人がいるんで紹介したいんですけど」
到着し、荷物を下ろさしてもらうと早々にエソ君が切り出してきた。なんでも去年大学院生として関西の大学から来た人が突きをやるらしく、僕に興味があると言うのだ。その人は今、アカメ釣りに行っているので僕らも行きましょうという提案になった。
「アカメ釣り!!いいねぇ~♪」
幻の古代魚、四万十川の主、釣りキチ三平が水上スキーを履いてまで釣った魚、アカメ! 高知といえば確かにこの魚をあげないわけにはいかないだろう。幻の魚と言われるくらいだからまず釣れはしないだろうと思っていたが、彼らの話を聞いていると、あながちそうでもないようなのだ。
今年に入って高知大学関係者だけで二桁近い数を揚げており、メーターオーバーも2本揚がっていると言うのだ。エソ君の後輩も、初めてのアカメ釣りで80㎝近い奴を揚げたという。
「もー、何もそんな、モチベーション上げられても困るヨ~」
そうニヤけながらも、しっかりタックルを用意して出発の準備をする。
だがここで事件が。リールがないのだ。
愛用のエンブレムX、しかも奄美で新しいPEラインを100m巻き変えたばかりだったのである! 落胆している僕にエソ君は自分のバイオマスターを貸してくれた。3号のPEが巻いてあるのでなんとかアカメもあげられると言う。とりあえず今回はそのリールを借りる事にした。
車でアカメを釣るポイントまで行き、そこから歩いて皆さんがやっている場所まで行く。ルアーボックスとタックルを持って歩いていくと、前方でシーバスロッドをキャストしている人達と会った。どうやらこの人達らしい。
エソ君に先ほどの大学院生、らくださんを紹介してもらう。年は僕より下なのだが、院生と聞くとなんとなく「さん」付けしてしまう。明日はこの人と3人で潜りに行こうということになり、とにかく今はアカメを釣ろうとキャストをする。 他にも5人ほどルアーを投げている人達がいたが、この日は結局スズキが3本くらい揚がったのみで、アカメは姿を見せてくれなかった。
らくださんとエソ君で買い物をしてからエソ君の家に行き、買った惣菜類とソーメン、コロダイの刺身を食べて少し話をし、就寝。
なんだかんだで寝たのは2時近くになっていた。
高知の漁師はウエットスーツ姿に手銛を持って原付で走っている
翌日、疲れていたのか9時頃目が覚め、エソ君とだらだら潜りの準備をして、早朝、研究室に戻ったらくださんを追いかけて高知大学の農学部キャンパスに向かう。
農学部は「土佐竜馬空港」と言うセンスのないネーミングの空港の近くにあった。ここでらくださんと再び合流し、らくださんの車で室戸岬に向かった。
昨日は西の足摺岬、今日は東の室戸岬。なんだかすごい移動距離だ。
高知県の沿岸域を走りながら色々と会話も弾む。海の話や魚突きの話をしていたらあっという間に目的地に着くだろうと思っていたが、そうは問屋がおろさず、けっこう時間かかった・・・。 何度か偽者の岬を見ながら走ると、やっと室戸岬が見えてきた。とりあえず先端まで行ってみる。
岬の先端には坂本竜馬とともに幕末を生きた中岡慎太郎の像が立っていた。だがそんな事よりも僕らは隣にある石でできたクジラの風見鶏が本当に回る事に驚き、海に行くとあまりのうねりの大きさに磯に打ち付ける波を前にしてビビっていた。
岬の周りをぐるりと回り、良さそうなところを見つけて潜ることにした。
そこに行く途中、前方を走っている原付の親父の格好が気になった。な、なんとジャージのウエット姿で、釣竿かと思っていたのは竹の二又ヤスなのだ。
「あの親父イカシテルぞ!!写真撮りたいなー」
そう言って横につけるとタイミング悪く親父は横道に入ってしまった。んー、この辺の親父は普通に魚突きやるんだなーと、写真は撮れなかったが妙に嬉しくなる。
3人ウエットを着てエントリー。昨日と変わらず、いや、昨日よりも濁った海を潜る。せっかく高知に来たのに、まるで三浦半島だ。潜る前はなかなか良さそうだと思っていたのだが、けっこうガッカリ。魚は多いがほとんどメジナ、イスズミ、アオブダイである。得にアオブダイは潜る前からエソ君やらくださんに「高知はアオブダイ多いですよ~、いや、ホンマに多いですから・・・」と、言われていた通り、ムチャクチャいた。 水面から眺めていてもいる、ジャックナイフ中にも見る、海底に着いても見る、寄せていたら目の前にやってくる、浮上していても見るといった感じである。でかいだけに腹が立つ。しかし獲りたくない。
魚影はすこぶる悪く、回遊魚もほとんどいなく、カイワリのようなシマアジがチョコチョコと泳いできただけだ。沖に向かって泳ぎ、かろうじて見つけた隠れ根でイシダイとイシガキダイを発見。寄せてみるがイシダイはかなり警戒心が強く、まったく寄る気配なし。30㎝強のイシガキダイが寄ってきてしまい、そいつを突いてエキジット。 陸に上がるとエソ君はあまりの透明度の悪さにやる気をなくし、早々にエキジットし、僕のあとにらくださんが来て、50cmくらいのコロダイを突いてきた。突く物がなく、ボウズは恥かしいのでコロを突いたと言う。
「いや~、せっかくBajauさんが来てくれたのに、これが高知の実力だと思われるのは嫌だなー」
もちろんこんなもんではないとはわかっているが、ひとつ気になったのはイシダイの警戒心が異常に高いということだ。この辺は人がけっこう潜っているのではないかという事で結論ついたが、確かにその可能性は否めない。それだけみんな潜り漁をやっている人が多いのだろう。
天気も悪くなってきたので早々に帰宅する。
再び高知大学により、らくださんの研究室に寄らしてもらう。そこで前回釣ったというアカメの写真を見せてもらう事に。
んーんーんー!!かっこいい!!
古代魚特有の厳つい風貌、鎧のような鱗、無機質な赤い目。たまりません。何とか僕がここにいるうちに本物が見れればいいと思う。
らくださんと明後日また、海に行く事を約束しエソ君と一緒に帰る。
この日は昨日食べなかったハマフエフキと今日獲ったイシガキダイで夕食にする。 二人じゃ食べきれないので同じアパートにいるエソ君の後輩、ヌルハチ君と家は違うが原付でやって来たヤム君と食べる。後輩2人は月末ということもあり試験中で、明日終わるそうだ。 ヌルハチ君は明日、テストがあるが「余裕です」とビールまで飲み、かたやヤム君は明日全部の時間に試験があるので「ヤバイです」と言いつつもやって来ていた。 先輩に呼び出されたあげく、訳のわからない浮浪者にテスト中だというのに酒につき合わされなればならない2人に、いたく同情しつつも、「大丈夫だって、再試験もあるんだろ?単位の一つや二つ気にするなよ!」などと、強迫めいた事を言い、うら若き青年を悪の道に導く俺だった。
シーカヤッカーが川を漕ぐとこうなる
高知三日目は、エソ君が研究室の用で学校に行かねばならないので僕はフリーと言う事になっていた。
当初、カヤック持って四万十川にでも行こうと考えていたが、どうせ行くなら一泊はしたいと思っていた。しかし次の日は学生達も試験が終わるのでみんなで海に行こうと言っていたし、その次の次の日には小豆島に移らなければならなかったので、何をやろうか迷っていたのだ。
とりあえずエソ君は学校に行き、僕はエソ君の家で地図を見ながら云々考えていると、エソ君から電話が。彼の所属する探検部の連中が鏡川を下るから、いっしょにやらないかというのだ。ポリ艇も貸してくれるというので、そうする事に。
1 時間ほど待つとエソ君と探検部のO野君がやって来た。彼の車に乗り、とりあえず学校でエソ君を下ろしてから 2 人で鏡川の出発地点に向かう。
O 野君はエソ君からほとんど僕の事を聞いていなかったらしく、話をしているうちに僕の素性がわかってきて、「エーッ!!まじっすかー!?」みたいな事を連発しだした。無理もない。自分でも自分の素性をどこまで話せばやっている事が理解されるかわからないもの…。
出発地点についてカヤックを河原に下ろす。河原には 1 年生が 2 人に、 3 年生が1人いた。試験が終わり、その憂さ晴らしだと思っていたら、彼らはまだ4限から試験があると言う。 アホか!でも、ちょっと車を飛ばせば川下りができるという環境はすばらしい。こういう場所なら探検部やカヤックなどのサークルは実力も高くなるだろうよ。
支流で投げ網を投げてアユを獲っているおじさんと話をしていると、 O 野君と3年生のT君が車をゴール地点に置いてきて、帰って来たので出発する事に。僕はヘルメットと PFD を貸してもらい、久しぶりにリバーカヤックに乗る。直進性がほとんどなく、くるくる回って面白い。 最初は流されながら遊んでいたが、瀬が見えるとみんな順番になって瀬をクリアーして行く。さすがにみんな上手かったが、一年生の1人が初めてだったらしく、流れの中で舟をコントロールできずに瀬に乗り上げ沈。流されながら岸に近づき、水抜きをする。 僕はと言うと、久しぶりの川下りということもあり、けっこうヘンなコースを通ってしまい、何回か瀬に乗り上げてしまったが、パドリングで無理やり逃げて沈を免れることが多かった。
川が浅くなり、流れが速くなる場所を「瀬」と言うのはみなさん知っていると思うが、こういう場所では水の流れる場所を見つけて一気に漕いで通るのがセオリーだと思うのだが、このコース取りに失敗して浅場に乗り上げたりすると、途端に水流をカヤックの横面に受けて沈してしまうのである。だから急流では躊躇わず、とにかく漕いでスピードを上げて安定感を上げなければならない。これはシーカヤックも一緒だ。
鏡川は最近の水不足で非常に浅かった。
「普段はもっと水量があって、この瀬なんかすごい面白いんですけどね~」
この4人の中で一番カヤックが上手いと思うT君がそう言う。 確かに何度も僕は舟の底を岩に擦らしており、これがポリ艇でなく自分のファルトだと思うとゾットする・・・!
でも、川下りも面白い。
自分の覚悟とは関係なく無常にも近づく目の前を轟々と流れる瀬。そこに突っ込み、自分の乗っているカヤックを突き上げるように流れる急流の中で一瞬の判断でカヤックをコントロールし上手くコース取りする。そしてその時の疾走感、下り終わったあとの達成感! 同じカヤックという乗り物でも、楽しみ方は様々だと思う。川のみにハマる人もいる理由がわかる。たまには自分のフィールドとは違うカヤックをやるのも色々考える事があって面白い。
ところがゴール間近の付近になってトラブル発生。沈をした一年生が釣人の置き竿に引っ掛かってしまい仕掛けをとってしまった。
これに釣りをしていたオヤジが激怒。沈した一年生はムリなのでT君が誤りに行くが、聞く耳もたずと言った感じで「俺は金払ってんだ!」「来るなといっているのにきやがって!」など、典型的なカヌーイストに釣人が浴びせる悪態をついていた様だ。
こんな細い川で置き竿なんかするなよと同じ釣師の立場として言いたかったが、仕掛けをとられたことには変わらないのでとにかく謝る。
一段落済んだところで今度はパドルがない事が判明。ふたたび親父のいるところに行ってパドルを探す。今度は親父も話がわかり、一緒に探してくれたようだ。やっぱ、悪い人ではないのだよな、こういう事を言う人も。
結局見つからなく、下流に流されたのだろうと思っていたら、下流の釣人が「パドルみたよー」と教えてくれた。
「水量が少なくて釣りにならんよ!カヌーのほうが楽しそうだ!」
釣師も様々だ。いろんな人がいる。
そこからはほとんど流れはなく、河原に上陸。なかなか面白い川下りだった。
カヤックを道路まで持っていき、 PFD やスカートを干してスタート地点に車を取りに行った O 野君とT君を待つ。一年生 2 人はあと 30 分で試験が始まるというので先に学校に行かせ、ぼくはその間、河原で遊んで待つ。雨が降ってきて少しブルー。
O君が戻ってきて一緒に大学に行く。腹が猛烈に減っていたのでO君とT君とラーメンでも食べようと目的のラーメン屋に行くと、すでに 3 時になっているので準備中だった。しかたなく別の食堂に行って焼肉定食などをがっつく。
2 人とも探検部というだけあって、僕が昔カヤックガイドをやっていたというと、妙に食いついてきて興味津々に話を聞いてくる。だが彼らの考えているカヤックガイドの仕事と、実際のカヤックを仕事にしている人たちのイメージはだいぶ違うのだろう。そんな華やかなモンじゃない。なんて俺が言っても信憑性がないか・・・。俺こそまだカヤックで食っていきたいと薄々思っている人間なのだから・・・。
O君が部室にスイカと桃があるから食べに行きましょうと、再び探検部の部室に行くと、用を済ましたエソ君が待っていた。4人で果物を食べていると今度はエソ君ももう一つのサークル、ヤム君やヌルハチ君もいる野生生物研究会の部会が始まるというので、訳もわからず潜入する。まぁ一番よくわからないのは他の部員だと思いますが・・・。
ともかく他の大学というのは楽しい。学生に戻った感じもあるし、新しい学校に来たような錯覚も覚えてなかなか新鮮だった。気まずかったけど・・・。
エソ君と彼の家に帰り、その後すぐにヤム君を捕まえて農学部のキャンパス近くにあるらくださんの家に行き、そこから歩いて居酒屋に向かう。何でもこの日は野生研のOBである人の誕生日パーティーをやっているというのだ。
そこには前日、アカメの写真を見に行った研究室の人が集まってドンチャンやっていた。一際体格のでかい毒魚マスターさんと合流する。ヘンな名前だが、HNがこうなのでしかたがない。この人が今回の主役で、何気に僕が高知に来る前に色々と情報を提供してくれたのはこの人だったのです。
ちょうど宴会も下火になったところだったようで、僕らの登場はかなり火付け役になったようだ。再び乾杯が起こり、毒魚さんがイッキで飲む。しかし翌日やる事があるらしく、泥酔するわけには行かないと懸命に逃れていたが、そこは日本で一番アルコール摂取の量が多い都道府県である、高知県。容赦ない。
結局閉店間際まで飲み、その後歩いてコンビにまで酒を買いに行き、らくださんの家で2時くらいまで飲む。
正直酔っ払っていて何を話したかまでは覚えていません・・・。毒魚さんはしっかり2時に2時間かけて歩いて帰ったという・・・。男だね。
ちなみに今だから言いますが、とても毒魚さんが僕より年下とは思えません・・・。
高知の海、3度目の正直
「う~ん、頭いたい・・・」
翌日、むくりと起きるとエソ君と僕、らくださんとヤム君しか見事に家には残っていなかった。ちゃんとみなさん帰るところがすごい。
この日は 4 人でまた潜りに行く事になっていた。場所は内緒。
朝マックのドライブスルーで朝食を買い、「関西はやっぱり朝マクドなの?」などという質問をしながら車を走らせる。
何だかんだで時間がかかり、目的地に着いたのは 1 時過ぎだった。 雨は降ってきたが海は穏やかだ。遠浅でその割には根が多く、なかなか面白そうなポイントである。 4 人武器を持ち海に入っていく。
外洋に面しているので潮がけっこう流れるかなーと思っていたが、泳いでいると向かい潮のような形になり、このまま進めば帰りは楽になるだろうと考えた。
根は海底 12 ~ 14m 、トップが 4m 位のものがボコボコあり、その根の中腹あたりで寄せては浮上を繰り返していた。けっこう良型のイサキが 2 ~ 3 匹で回ってきており、狙うが外しまくる・・・。もっと引き付けないと。
イサキに似ているが一際大きい魚が寄ってきた。
アオチビキだ。南国高知らしい。屋久島のうっぷんもあったのでとにかく近くまで寄せて突く。 50 ㎝までは行かないがアオチビキゲット。ブイに取り付け、とりあえずボーズはないと安心する。
〆ている最中、隣をヤム君が通過した。ブイには小型だがカンパチが付いている。やるな~と思いつつ、さらに沖に向かう。
沖には磯があり、底が砂地になっている為か透明度が極端に落ちている。沖からのうねりを受けてサラシができていたのでヒラスズキを探すがいない。底に潜って待っているとハマフエフキのバカデカイ群れがやって来た!! 80 ㎝はある個体が 3 ~ 4 匹。板状の岩の上で待ってみるが、なかなか射程に入らない。何回か潜っているといなくなってしまった。
さらにその磯の外側に行くと一気に 20m 以深までいっているようだ。どうやらここがここの大陸棚の切れ目らしい。そこで青物が来るのを待つが潮が引いてきたせいか波が高くなり、何度か岩に叩きつけられそうになる。 面倒臭いことになりそうなので少し戻り、海底で待っているとイシダイが寄ってきた。行ったり来たりするイシダイを辛抱よく待ち、とりあえずゲット。 40 ㎝くらい。いまいちだが、ここでは初めて見たイシダイだったので数が少ないわりには一発で獲れてよかったと納得する。
もう帰ろうと思い、潮に乗ってもとのエントリーポイントに戻る。 途中、海底にあるゴロタ岩の下にクチジロ発見!結構僕からすれば深かったが息を整え潜行する。海底に到達してあたりを見回すがクチジロの気配はない。しばらく様子を見た後、浮上。息を整えながら海底を見ると岩の間からクチジロが顔をのぞかせた。
「あそこか~」
再び潜行。隠れている岩から少しはなれた場所に着底し、奴が顔を出すのを待つ。しばらくすると白いくちばしが見えた。ここで待ちくたびれたせいか、陸に上がってエソ君たちにうりゃ~と、クチジロを見せるシーンを想像してしまったせいか、焦って体があるだろう場所に打ち込んでしまった・・・。見事にはずれる。
「アーもうダメだ・・・」
案の定、しばらく彼が出てくることはない。諦めて帰ることに。
なんとなくこの不甲斐ない結果にイライラしていた僕は、足元を泳ぐヒブダイにふと目が行ってしまった。そういえば高知大の連中が「本当にヒブダイは美味いのか?」とかいう話をしていたなーという事を思い出し、僕も内地のヒブダイの味に興味が湧いてきてしまって、いっちょ獲るかということになった。 ヒブダイはお食事に夢中だったためか、アッサリ突けた。それでもえらく暴れられ、何とか〆ると、なんと他の 2 匹よりでかいではないか!
「何でオマケに獲った魚が一番でかいんだよ~」
そう思いつつ、みんなが上がっている磯に上陸。波打ち際ギリギリに 40 ㎝近いチヌがいたが、時すでに遅しだった。 エソ君はイサキとスジアラ1匹づつ。らくださんはクチジロとイサキ 2 匹、ヤム君はカンパチ 1 匹という突果だった。みんなで記念写真をして早々に帰る。 再び長時間のドライブ。いったんエソ君の家に僕と荷物を置き、ヤム君をいったん家に送りらくださんちに置いてあるエソ君の車を回収に 3 人は出発した。
僕はその間にシャワーに入らせてもらい、ウエットを潮抜きし、獲ってきた魚を料理にかかる。ヒブダイはいつも通りタタキにし、アオチビキは焼き霜造りと刺身にする。隣に住んでいるエソ君の 2 人の後輩にも手伝ってもらい魚を刺身にする。彼らも別行動で魚突きに行っていたのだ。あえて突果はいわないけどね・・・。
ある程度料理ができたところでエソ君が帰宅。ヤム君もやってきてカンパチは塩焼き、スジアラは清蒸にする。他にもイシダイの刺身、あら煮付け、イサキの塩焼き等々、なんだかえらく豪勢な料理になってきた。
なんだか時間がえらくかかり、ビールの栓が抜かれたのは夜中の 11 時を回った頃だった。もう料理だけで疲れていたが、めでたく乾杯。
みんな気になっていたのか一斉にヒブダイに手が伸びる。
「・・・!!」
「 Bajau さん・・・ヒブダイウマいっす!」
予想に反してみなさんヒブダイのタタキが気に入ってしまったようで、アオチビキやイシダイの刺身がある中で真っ先にヒブダイがなくなってしまった・・・!アーこれで野生研は今度からヒブダイを獲ってくる奴が現れるな。いや、間違いない。
腹が減っていたのだろう。料理はことごとくあっという間になくなっていった。疲労した体に酒が回る。
食べるのに夢中でほとんどの会話のネタはヌルハチ君がふっていた。ヘンな奴とは聞いていたが、彼の人知を超えた行動秘話を聞きながら、引きつった作り笑いを見ると、なんだかあまり関わらなかった方がよかったのかも…という気分にも、なってきてしまう。
まぁ内輪ネタはこの辺にしといて、その後、野生研の女の子なども来てきれいさっぱり料理はなくなった。 2 時頃、ヤム君たちも帰り、部屋には僕とエソ君、らくださんだけとなって、自然と消灯となった。
高知、最終日の奇跡
昼頃、エソ君がコーヒー豆をゴリゴリと挽く音で目覚める。らくださんも虚ろ顔で部屋に座り込んでいた。さすがに寝すぎた。しかし体がだるくて色々とやる気がしない。
エソ君がコーヒーを煎れてくれ、それを飲みながら写真の整理などをさせてもらう。ついでにらくださんとエソ君にこれまでの旅の写真を見せる。そんな事をやっていたら 13 時半をまわってしまった。
腹が減ったので彼らがよくいくという中華料理屋に行き名物からあげ定食を食べる。
その後らくださんは研究室のバーベーキューの準備があると別れた。僕とエソ君はこのあとの小豆島と隠岐諸島の地図が欲しかったのでそれを探し、ついでにお土産にと、本場の酒盗を買おうと塩辛屋を物色する。
高知市街に入ると、鏡川祭があるせいか、あたりは浴衣姿の女の子がいっぱいいた。そして来月には高知の有名な「よさこい祭」があるため、あたりで練習しているのをよく見かける。大学の中でもサークルがあるらしく、汗を流して練習しているのを見て、妙に興味を覚えたのである。
「夏は祭だよなー・・・」
いろいろ日本国内にもたくさんの祭があるが、よさこい祭は若い人が率先して参加している祭という事で昔から興味があったのだ。無気力そうな兄ちゃん姉ちゃんが祭の為に一生懸命練習を重ね、祭では華やかな衣装に着替えて汗だくになりながら踊るのである。
単身で、好きなことばかりやっている僕のような男には、みんなで力を合わせて何かをやり遂げたり、完成させたりするという事に妙なコンプレックスを持っていて、憧れるのである。
「俺、隠岐に行ったらまた戻ってくるわ。よさこい見に」
そうエソ君に言うと、佐賀から来たエソ君もまだ一度もよさこいは見たことがないから一緒に行きましょうということになった。
魚獲ったり、カヤック漕ぐだけが旅じゃないよな。
その後、チョキ銛先の老舗、「フィッシング林」にいって銛先を購入する。なんでももう製造ができないらしく、在庫のみの販売だというので一番欲しい 16 、もしくは 18 番を探したがもうないと言う。仕方ないので 14 番と 20 番を買う。これがなくなったら銛先も自作しないといけないなー。
夕方は特にやる事もなく、酒を飲んでも始まらないから釣りにでも行こうということになった。アカメは釣れるかわからないからスズキ狙いで行こうと思ったが、潮の都合でスズキのポイントはダメらしい。
で、結局前回行ったアカメポイントに向かったのだが、これが奇跡を生む事になるとはこの時は知るヨシもないのだった・・・。
始めたのが暗くなりだした7時半頃。水面下には大量のベイトが集まっており、なかなか釣れそうな雰囲気ではあるのだが、釣れてはくれない。
1時間ほど、何も釣れる気配はないまま、時間だけがすぎていったが、8時半頃、僕の後方で釣りをしていたエソ君の方から炸裂音が聞こえた。
「まさか!?」
竿を持って彼の方に行くと、なんとなんと!?どこかで見たことがある魚を持っているじゃありませんか!目がルビー色に光っている!!!
「ちっちゃいけど、やりましたよ・・・!」
52 ㎝、世間一般で言われるアカメに比べれば小さい物だが、目の前には生のアカメがいる。
「ルアーで口が壊れたからキープします」
そう言って水際でアカメを〆た。僕は〆たアカメを貸してもらい、まじまじと見たかったが、人目にさらしたくないといってエソ君はすぐにアカメをしまってしまった。
しかし何より、これで俄然火がついてしまった。エソ君にヒットパターンを教えてもらい、それを実践に移す。ひたすら遠投し、リールを巻きルアーを泳がせる。
エソ君は後輩に何かトラブルがあったらしく、 1 時間ほど離れますといって去っていった。だがその間僕に何かあったかといえば特に何もドラマがおきる事もなく、ひたすらキャストを繰り返しているのみであった。
エソ君も戻ってきて、ルアーを投げ出した頃、潮が動き出し、周りで「バコーン、バコーン!」という何かの捕食音が聞こえてきた。もちろんスズキにしては音がでかい。アカメだ! 緊張した面持ちでキャストを繰り返していると、何かがヒット!村田基バリに大アワセを食らわし、一気に巻き上げる。
ところが最初ドラグを出した物の、あとはズルズルとほとんど無抵抗に上がってくる。
「スズキかぁ~?」
そう思って魚をズリ上げる。ランディングにてこずっているとエソ君が手伝ってくれた。
そして一言、こう言った。
「 Bajau さん、スズキじゃないですよ、これ」
え?
じゃぁ、まさか、あ、あ、アカ・・・!
「・・・ボラです」
ズコォー!!
思わず本気でスッ転びそうになったほど落胆した。
ガッカリだ。本気でガッカリだ!
しかもスレでなく見事に口にガップリフックがかかっているのだ。京浜運河で大物釣りの練習にとボラを釣りに行くことはあったが、まさか本番でまでボラが釣れるこたぁーないだろ!しかも高知まで来て!! 普段ならボラといえども優しくリリースするのだが、この時はアッたまに来て、蹴り上げて海に返した。フラフラしたあと、ボラはとんだとばっちりを受けつつもゆっくりと泳いでいった。
ガッカリしながらキャストを繰り返していると、らくださんとその研究室の後輩がやってきて隣でキャストしだした。バーベキューが終わったようだ。
人が多いので結構離れた場所でキャストしていたが、どうも疲れてきて、夜中の 1 時頃、もとの場所に戻る。 エソ君もかなり粘って釣っていたが、さすがにもう今日は無理かという雰囲気になっていた。
ところがだ。さて帰るかという頃になって水面がざわめき出した。泳いでいるベイトフィッシュが岸際に集まりだし、あたりには小魚が躍るような音がピチピチとこだまし出す。
「これは・・・?」
そう思っていた瞬間だった!
「ギァアアアア――――――――――――ッ!!」
静寂の闇の中、恐ろしい勢いで糸が出ていくドラグ音が響く。ふと横を見るとらくださんの後輩がプルプルしながら中腰で竿を必死になって支えているのだ。
「でたぁ――――ッ!!」
アカメがかかった!!
後輩が持っている UFM ウエダのプラッギングスペシャルが、ありえない角度で曲がっており、バットの根元からいっきに放物線を画いている。そしてドラグは止ることなく糸が出ている。そのドラグ音は後輩の悲鳴か何かなのかもわからないほどの勢いで、あたりに響き渡る!!
後輩から見て左側にストラクチャーがあり、そこに入られたら終わりだ。何とか右側に誘導したいところだった。僕とらくださんが左側に回り、地面をたたき、水面に石を投げてこちらに来させない様にする。
魚の動きが止る。ドラグを絞め、ポンピングを開始する。
だが… !?
「アーダメだー!止マラねぇーッ!!」
油断するとあっという間に糸を引き出していく。いくらドラグを絞めても「無駄無駄無駄ーッ!!」と、アカメはこちらをもてあそぶように突進する。
自分の獲物ではないが、この時、みんながこの魚を揚げる事に全神経を集中していた。無理をすればバレる、しかし無理をしなければこの巨大魚はあがってくれそうもない!
好運な事に、魚は 15 分もするとだいぶバテてきていた。巻ける時に巻いてしまえといっきに手繰りよせる。
「ボゴォッ!!」
水面からアカメが現れる音がした。ライトで必死になって魚を探す。
「あれだっ!」
ライトを照らすと赤い目が光って見えた。そしてそれ以上に驚くような、ありえない位でかい金の鎧をまとった魚体が確認できた。
あと少しだ、でも油断はできない。空気を吸わせ、弱ったところを足元に寄せて行く。この足元まで寄せてきたところで突っ走られ、バレることが大物は多いのだ。
らくださんが水の中に飛び込み、手作りのギャフを持って構える。ルアーはアカメの下顎に掛かっており、一つのフックが外れかかっていた。速く勝負を決めないとやばい・・・!
勝負は一瞬で片付いた。
らくださんが寄せたアカメの下顎にギャフを打ち、下顎を持っていっきに陸の上に放り上げる。 だがあまりの重さにいったん水の中に落としてしまい、再びエソ君と 2 人がかりでその巨大魚を水中から引きずり出した。
「ぅおーッ!」
「よぉーっしゃぁ!」
「おめでとう!!」
一同、ガッツポーズ。後輩と握手をする。
今まで、メーター近いタイや、スズキ、メーターオーバーのクエ、マグロなども見てきたが、それらと遜色ない、もしくはそれ以上に違和感のある光景だった。なんと言ったって、自分の目の前に幻と言われるアカメ、それもメーターオーバー、 20 キロ以上の化物がいるのである・・・!!!
計測すると 114 ㎝。高知大学関係者で今年 3 本目のメーターオーバーアカメとなった。
写真撮りまくりである!らくださんと僕とでアカメの写真を撮りまくる。後輩も記念写真だからとアカメを抱えるが、重すぎて持ち上げる事ができない・・・(笑)そのくらいでかいのだ。こぼれ落ちた鱗も 500 円玉より大きい。ピラルクーの鱗もこんな感じなのだろうかというほどの厚みである。
この個体は傷も少ないのでリリースする事にした。水中に戻し、下顎を持って前後に動かす。だいぶ弱ってしまったので時間がかかりそうだ。後輩がやっていたが、らくださんに変わり、魚を縦にして八の字状に動かし、鰓に水を送り込む。 10 分ほどやると魚も横にならずに泳ぐ事ができるようになり、抱えるように前後に動かしてやると、ゆっくりと体をひねり、優雅に自ら沖に向かって泳いでいった。
「 Bajau さん、高知最後にいい思い出ができましたね・・・。」
「あぁ・・・。自分で釣ったとか、人が釣ったとか関係なく、良いもの見さしてもらったという気持ちの方が強いよ・・・」
らくださんに言った言葉は本音だ。本当に悔しいというより、あんなすごい生命を見させてもらった事のほうが感動的で、まだドキドキと胸に余韻が残っていた。
まだ釣りをやっていくという 2 人と別れ、僕とエソ君は家路についた。あまりにも興奮したので夜が勿体無く、すぐに寝るつもりだったがコンビニでビールを買い、夜中の 3 時近かったが 2 人で祝杯を勝手に上げさせてもらった。
翌朝、僕は高知駅にエソ君に送っていってもらい、高知駅から仕事が待っている香川県の小豆島に向かう事になる。
青春だよ、よさこい祭の巻
ここで時間はいっきに 10 日ほど経過する。
高知をいったん離れた僕は、その足で香川高松からフェリーに乗り小豆島に向かい、キャンプツアーの手伝いをした後、日本海に抜けて隠岐諸島にカヤックをしに行く。そしてそこから日本をある意味、電車で縦断し、再び高知に戻ってきたのである。これら二つの話は第八章、第九章で読んでください。
8 月 10 日。早朝、鳥取の境港を出発した僕は米子、新見、岡山と移動し、瀬戸大橋を渡って四国高松に。そこからさらに阿波岩田に行き、高知に着く。この時点で 18 時だ。ローカル線に乗り換えて高知大学のある朝倉駅で下りる。
丸一日電車での旅。だいぶ慣れてきていたが四国に入ってからは同じような 18 切符旅行者が多くてなかなか電車が混む。夏休みに入った事も影響があるのかもしれない。
朝倉では腹が減ったので、前回食べられなかった探検部といったラーメン屋に行ったが、今度は定休日だった・・・。どうもこの店とは相性が悪いらしい。 どうしてもラーメンが食べたかったのでコンビニでカップラーメン買って 1 人で食べる。
汗だくになっているとエソ君が迎えにやってきてくれた。
エソ君の家に行き、相変わらずでかい荷物を運んでいると後輩の男の子もやってきて今日は飲もうという話になっていたのだが、人を呼ぼうとしたらどうやらみんな(探検部の連中)よさこいの会場に行っているようなのだ。
「どうします?」
「だったら俺らも行こうよ」
と、言う事で急遽路面電車に乗り、高知市街に向かうこととなった。
路面電車でみんながいる「ひろめ市場」に行く途中、よさこいに出ると思われる踊り子たちが大量に乗り込んできた。市内各所で行われる踊りの会場に行く為、踊り子たちは路面電車も自由に利用する事ができるようなのだ。なんだか臨場感が湧いてきた・・・!
目的のひろめ市場に着くと、居酒屋の集合広場のようになっていてみんな飲んでいた。初対面の人が多いのでちょっと挨拶をしたのち、まだしばらくいるというのでよさこいを見に行く。
ひろめ市場に一番近い帯屋町筋で行われる演舞場でしばらく鑑賞する。ここはアーケードの中でずいぶん目の前を踊り子が踊っている。よさこいは各チームに分かれ、 1 チームに一台山車が先頭を行き、その後にみんなが歩きながら踊っていくというもので、山車から大音量で音楽が流れ、スポットライトに照らされた踊り子達が、みんな自分の仕事を持っているにもかかわらず、プロのような勢いで踊っている。この祭に 1 年間の半分の時間をかけているだけの気合いがうかがわれる。
よさこい祭は基本的に鳴子を両手に持って定期的に流す「高知の城下に来てみれば~♪」と、いう様なよさこいのお決まり音楽にあわせて踊る事があれば成立するらしく、レゲェやヒップホップ、または沖縄のエイサー、フラダンスの格好までしているチームもあった。
衣装も昔ながらの格好もあれば浴衣や着物をモダン風にした物や、それこそまったく関係ない格好のチームもあり、ある意味コスプレに近かったが、秋葉系のような自己陶酔感はなく、踊りのために必要だから着ていると言う感じを受ける。
似た祭に札幌の「 YOSAKOI ソーラン祭」があるが、基本的には同じらしい。こちらは北海道のソーラン節が基本の音楽になっているけど。マスコミなどによって広く知れ渡ったので知名度としてはどちらも同じくらいだから、区別がつかない人も多いのだろう。
この日は初日なのでみんなのところに戻って少し話をし、閉店だということで外に出る。なんだか訳もわからず高知大に連行され、飲むことになった。
探検部に兼部している女の子がちょうど九州からの 18 切符の旅から帰ってきたところで、偶然にも朝倉まで僕と一緒だったというのだ。
「なんだかすごい荷物を持った人がいるなーと思っていたら、高知駅で降りて、さらに朝倉まで着いてくるんですもん!高知大にこんな人いたっけな~って、思ってすごい謎だった・・・」
すいません、お騒がせしました。この電車には似たような汚い変人がいっぱい乗っていたので彼らの話をして盛り上がる。探検部だけあっていろいろな事をやっている奴らがいて非常に面白い。
現在東大に行っている S 君は、学部生時代にアルフェックのボイジャーに乗って、 3 月に石垣島から西表島まで行きパイミ崎を越えようとしてムリだったといった。こんな奴、いるんだなーと呆れつつもその行動範囲の広さと行動力に大学の探検部のすごさを知った。
すごさを知ったといえば、この夜、意味もなく始まった飲み会で日本酒4升がなくなった。 10 人近くいたとはいえ、下戸の人も多かったので驚異のスピードである。さすが高知県だ・・・半分へべれけになりつつ、 3 ~ 4 時にみんな寝たらしい。僕も記憶がない。
朝、二日酔い気味で起きると、部屋は凄惨な事に・・・。
ヘンな匂いがする部屋をかたずけて各自帰路につく。
探検部の連中は吉野川に日帰りで行くといい、僕とエソ君は一度家に帰ってから再び電車に乗ってよさこい祭を見に行くこととなった。
この日はメインストリートである追手筋本部演舞場で観覧する。高知城の城下にある直線道路で 2 チームが同時に前進していくのだ。サイドには桟敷が用意され、有料席となっているので僕らはその端で観覧する事になる。
昼間の炎天下、踊り子たちは全身汗だくになりながら懸命に躍る、踊る! 適当にこなして行く奴なんておらず、みんな笑顔で疲れているのを必死に我慢して踊っている。 よく街の中で見るようなチャラついた無気力の若者のような兄ちゃん、姉ちゃんが、イキイキと踊っているのだ。若者ばかりでなく、老若男女、分け隔てなく躍っている。一糸乱れぬ動きでチームが一つになっている感じが伝わってくる。 男はみんなかっこよく見え、女はみんな綺麗に見える。 夏の街の中にある特有のホコリっぽさと、気だるい蒸し暑さ、そして汗と体臭。人の体から発せられる熱気がそこらじゅうから感じられる夏の祭。
「よさこいはみる阿呆じゃダメだな。躍らないと」
なんだか体がそわそわし、踊り子たちに対してものすごいジェラシーを感じたのが、よさこい祭の僕の感想である。
「高知に生まれてよかった」
バックにそう書いてある T シャツを見た時、ふらふらと旅などしている自分が少し悲しく思え、自分の生まれた土地の事など考えてみた。
ひろめ市場で生ビールとカツオのたたきを頼む。どうせだからと塩タタキにしてもらった。麦藁を焼く炎であぶった本場の土佐造りは、醤油もポン酢もいらず、塩とレモン汁、ニンニクのスライスだけで思わずにやけてしまった・・・!熱気に囲まれていただけに冷たい生ビールは至極美味く、この上なく満足だ。
夜、高知大学のよさこいサークルの演舞を見た後、電車が混むと嫌なのでエソ君と帰ることにする。路面電車に乗り込み、車窓から外を見るとやけにこちらに向かってオーバーアクションをする車がいた。吉野川から帰ってきた探検部の連中だった。
乗り換えの時にホームに出ると待ち伏せしていたかのように彼らにラチられ、再び学校に連行されて部室でスイカなどを食べる事となる。何でも彼らは明日から韓国に行き、韓国の洞窟学会の連中と一緒にケービングをするというのだ。 おまえら、こんな事やっている場合じゃないだろと思いつつ、韓国に行く準備などを冷やかしてやる。
翌日、よさこい最終日で全国大会も行われるはずだったが、昨日だいたい見たし高知も今日が最後ということで海に行く事にした。
高知市内の海に近いところに行き、海水浴程度に泳いでタコとカサゴ、イタチウオとかいうマニアックな魚を突いて遊んだ。
夜、エソ君と 2 人でタコを茹でて刺身にし、カサゴとイタチウオで煮付けを作って呑む。
エソ君が冷蔵庫から魚の頭を取り出し、レンジで解凍してから焼きだした。何かと思ったら、この間釣った 52 ㎝のアカメの兜だった。身は食べてしまったのでこれで我慢してくださいと、兜焼をこさえてくれたのだ。
十分、十分!何気にアカメは食べたいと思っていたので、最後の夜に相応しい肴だった。
アカメの頭は想像していたとおり、マダイとスズキを足して二で割った味であった。脂が結構乗っており、淡白な感じはない。上品だが真鯛の様に身に味がある。あごの力が強いというだけあって頬肉がとてもついており、一言でいうならば、「美味い」魚である。
「またいつでも来てくださいよ、アカメにも未練があるんじゃないですか?」
それはおまえだろ?と、突っ込みつつ口下手のエソ君としんみりと酒を飲んだ。
エソ君とは正直言えば、恥ずかしながらネットで知り合った仲だが、実際に会ってみて、釣りの趣味や魚の趣味、考え方も共通する物があり非常に話があった。恐持ての顔と無表情、無口があり、なかなかとっつきにくい感じではあったが、実際に会って話しができたのはよかった。
「じゃ、またな」
翌日、僕は 2 度目のエソ君の見送りで再び高知を後にした。