さむぞら三浦半島単独ツーリング
~神奈川県:三浦半島~
2006年1月24日~25日
カヤックが漕ぎたくなった。
とりあえず、冬のカヤッキングをやってみたくなり、手短に三浦半島に行く事にした。
どういう訳か、カヤッカーというのは冬になるとカヤックに乗らず、雪山にこもってしまう傾向がある。しかもやる事も「テレマークスキー」が定番だ。
「カヤッカーは、冬になるとテレマーカーにならなくちゃいけないのか??」
そう思ってしまうくらい、みんな雪山に行ってしまうのである。
「だって寒いじゃん」
ご、ごもっとも・・・(でも雪山はもっと寒いだろ!!)
「西高東低で海も荒れやすいしね」
た、確かに・・・。
「冬はウィンタースポーツを楽しんだ方がいいじゃん。季節モンで」
な、なるほどね・・・。
確かに理にかなっています。カヤックが北米の極北で生まれた物など今更言うのも恥ずかしくなるほど、確かな事です。
でも待てよ・・・? 誰もやらないということは、それだけ人が少ないって事だよな。それに天気が変わりやすくて海が荒れるならトレーニングにはちょうどいいな。体も鈍ってきたし、そろそろカヤックを動かす筋肉を活性化させないといけないな・・・と思い、平日の暇にまかせて突発的に決行したのであった。
動機はいつも単純です。
2006年1月24日。
何だかんだで準備をしていたら出発が遅れ、家を出たのが13時。出発予定の三浦海岸の駅に着いたのが15時40分。艇を組み立て出発したのはなんと17時だった。
「よいこの皆さんは家に帰りましょ~」
そんな放送が16時には聞こえてきた。おいおい・・・。よいこは家に帰るのに俺は海に行くのカよ。出発する準備が出来た時、対岸の千葉には早くも灯が灯り、夕日の残照があたりを赤く染めていた。
普通に考えれば出発は見送りだが、少なくとも18時くらいまでは漕げる明るさだと思っていた。それにここでは人目につくし、ヤンキーは多いし、キャンプしにくい。せっかくだから無人の浜でキャンプがしたかった。
出発。
まっすぐに雨崎に向かう。
途中、定置網やワカメの養殖棚をぬうようにして漕いでいく。
山陰に見える夕日の赤い光が次第に弱くなっていき、岬の先端付近まで着いた頃にはすでにナイトカヤッキングの装いになってきた。何気に風も強くなって来ている気がする。向かい風だ。
最初は「まァ何とか明るいうちに着けるだろう」と思っていたのだが、あまりの暗くなるスピードの速さに焦りだし、後半は急ピッチでパドリングをしていた。だが海面の波は見えるし、時々現れるワカメ養殖棚をかわすくらいの余裕はあった。暗礁も風波が起きているので白波だってよくわかる。急ぐには急ぐが、だからといって不安や闇から来る焦りはなかった。
雨崎を回ったところに手ごろな浜があったので上陸。ここでビバークとなった。
海から見たら壁だけのように見えたが、近づくと予想通り手ごろな浜があり、艇を潮上線まで持っていき、テントサイトを探した。
岬の先端付近だったからかもしれないが、予想以上に風が強い。砂がパチパチと体に当たる。暗くてほとんどわからないのでライトで照らして低木の茂みに囲まれたくぼみにテントを張った。
テントを張り、ウエットとセミドライスーツを脱ぐと風が体温を奪う。乾いた服に着替えてテントを風に飛ばされないようにすると、やっと落ち着いた。
「あー、やれやれ」
予報では今夜は風速1程しかなかったのだが、どうみても6はあった。瞬間なら8もあったろう。やはり予報とは局所的にはあてにならない物だ。
あたりを懐中電灯片手に探索すると、他にもいいサイトはあったが、面倒臭いのでそのままにすることに。
夕飯はパスタを茹でて、缶のミートソースをかけただけ。それにビール一本。風が強いので無理に焚き火を起こすのはよした。焚き火が楽しみだっただけにチト寂しい。
こんな時に限って電話がよくかかり、人と話していたらスパゲッティーがのびてしまった。
ラジオを聴きながら本を読み、0時頃就寝。
強い酒を忘れたので夜が寂しかった。
2006年1月25日
朝6時30分起床。
テントを開けると思わず目をしかめた。
正面から見事に上がる朝日。房総の山々を照らしている。見事。
もう一眠りしたい気分だったが、その朝日に起こされた形でシュラフに包まりながら本を読んだ。
お湯を沸かし、その中に缶コーヒーを突っ込んで燗にする。その湯はカップラーメンに入れて使う。最近、インスタントコーヒーすらも煎れなくなって来てしまった。無精にも程があるが、今回は本当に適当に荷物をまとめてきたので缶コーヒーを買ってきただけマシだと思う。僕は忘れ物ばかりなのだ。
忘れ物と言えば、箸とカトラリーも忘れ、缶切りの付いたアーミーナイフも忘れた。せっかく好物のサバの水煮を買ってきたのに開けられず、ラーメンも昨日のスパゲッティーも海岸に落ちていた竹の棒ですすった。缶詰もナイフでコジ開けようと思えば何とかなるのだが、まぁ確かに道具なんてどうにでもなるものだ。
当初、葉山まで漕いでいく予定だったのだが、その予定がなくなったのでもっと近場の芦名で今回は切り上げる事にした。そのため出発はそれほど急ぐ必要はなかった。
昨夜の風はどうなったのかと思うくらい、この日は微風、ベタ凪。天気も良好だ。
潮も上がっていてエントリーも楽♪いたせりつくセリ。
9時10分、出発。
北風の追い風でカヤックはスイスイと進む。多少波があり、かえってそれが面白い。
沖の離れ磯の上にはウミウがコロニーを作って海鳥特有のあのウンコ臭をあたりに漂わせている。あちらこちらで漁師が覗突き漁を行っていた。
剣崎にはあっという間だった。ロックガーデンの中をあえてすり抜けるようにコース取りし、漕いでいく。うねりで見え隠れする隠れ根を見定めながら進むのは楽しい。
ここからは西に進路を変える。風が緩やかになり、太陽も背中側になるのでサングラスをはずして進む。冬空は青く澄み渡り、飛行機雲が何本も交差している。
このあたりはなかなか交通の便が不便なので陸からも来た事が少ない。三浦半島の奇岩が集まった場所で、とても東京湾の入口とは思えない景観だ。もちろん漕ぐのも初めてなので面白い。あえて浅い場所を漕ぐ。
ふと沖を見ると雪をかぶった大島が見えた。5日前に降った雪がまだ三原山山頂に残っているのだ。
「雪がある大島ってのもいいね。大島砂漠はどうなっているのかな?」
セミドライスーツを着ているので実はかなり体は熱くなっていた。首周り蒸れて痒い。だが、顔に当たる冬の風が適度に気持ちがいい。
「冬のカヤックも気持ちいいじゃん。ありだよ、アリ!」
なかなか満足だ。
毘沙門を過ぎたあたりで風力発電用の風車が見えた。そしてその風車の向こう側に富士山が薄っすらと姿を現してくれた。かなり下の方まで雪に覆われている。海の上で見る富士山はなかなかに威風堂々、カッコがいい。よく見ると麓から丹沢山系や箱根、伊豆にかけての山並みが見渡せる。
大乗谷のあたりでロケをやっていた。何だ、誰か有名人はいないかと目を送ったが見つけられるわけもなく、そろそろ城ヶ島に移らないといけないので視線を島に向けた。
城ヶ島と三浦半島の間は三崎漁港になっていて船の往来が激しい。あえてそんな中に突っ込みたくはないので航路がはっきりしているあたりで島に渡り、城ヶ島の沖側を漕いでいくのがローカルルールになっている。
沖から入ってくる漁船と出てくる船を見定めて一気に航路を横断し島の白灯台の下を通る。適度なうねりが磯をあらい、それがブーマーを作っている、しかし心配するような物でもなく楽しみながら通り抜ける。
島の反対側は断崖で、草木が枯れて荒涼とした雰囲気がでていてよろしい。ここもあえて浅い場所を選んで漕いでいく。
さすが城ヶ島まで来ると透明度が一気に上がった。そのためか、周囲にはたくさんの漁師が船を浮かべ、箱眼鏡を見ながら長い竿で海底を突いている。何を採っているかと思えばサザエのようだ。人によってはカジメやワカメも採っている。タモ網と併用してアワビを採っている人もいた。
城ヶ島は昔から夏は潜水漁、冬は覗突き漁が盛んな様で、冬は透明度が上がるのでちょうど覗突き漁にはいいようだ。だいたい10月から翌年4月まで行われると言う。
崖には大量のユリカモメやウミウがとまり、大量のウンコをしているため岩は一面真っ白である。しかもその海面には漁師が箱眼鏡で漁をしている。知床を思い出した。しかしここは神奈川県だ。行くとこ行けば、まだ都心近くにもこのような景色が残っているのだなーと感心する。
城ヶ島の裏にある赤羽海岸に上陸。トイレタイム。
ここはかなり良い。キャンプには最高だ。今度来る時はここでキャンプしようと誓う。
10時50分、再び出艇して長津呂崎を越える。
再び三浦港の入口に出て、釣り舟を2船ほど待ってから航路を渡る。
新しい堤防を作る工事をやっているが、ここの堤防が非常にクロダイの落とし込みつりに良さそうな堤防で、おそらくこの下にはクロダイやスズキがウジャウジャいるだろうという形だ。完成したら瀬渡しも行われるだろう。
11時30分、諸磯到着。
本来は昨日、ここまで来てテントを張る予定だったのだ。ここまでの所要時間を考えれば昼頃に出発していれば十分間に合うはずだったのだ。自分の時間のルーズさが怖い。
諸磯周辺になると透明度がさらに上がり、ホンダワラのガラモ場がカヤックから見えるとともに、砂地に行くと「ここは三浦か?」と思えるほどのコバルトブルーの海になる。周囲の離れ磯にはウミウやカモメが営巣しており、近づくと一斉に飛び立ってあたり一面鳥だらけになった。
風は北風なので向かい風になるが爽やかな物だ。
諸磯から油壷湾に入る。ここは深い入江になっており、海面ギリギリまで森がある。桜の木もあるので春に来たいものだ。海底にはアマモ場が見え、その間をウミタナゴが泳いでいる。アマモ場は魚の保育園だ。その環境にアマモ場があるかどうかは魚の豊かさを知るうえで重要である。
入江から出るとアマモからガラモに再び変わり、パドルに度々ホンダワラが絡み付いてきた。しかし豊かな海の上を漕いでいるようで嬉しいような、楽しいような気分。小網代湾を横断する頃からそれまでの迫ってくるような地形から開けたような感じになる。
三戸浜の沖を漕ぎ、黒崎の鼻を越えて和田長浜に出る。かなり沖でも浅く、沖は砂地ではなくしっかり海藻が生えていて岩場になっている。覗突き漁の漁師がずいぶんと開けたところで操業しているところを見ると、あちらこちらに隠れ根があるのだろう。だが海は穏やかなのでブーマーの心配はない。
和田長浜を越えると今度は亀城礁の灯台が見えてきて、荒崎に近づいて行く。僕は何気にこの区間は初めてだったので、ちょっと面白くなってきた。
途中、細くて深い入江が見えたので中に入ろうかとしたが入口に釣人がいたのでよしといた。後で調べたらそこが「どんどん引き」と呼ばれる場所だとわかり少し行かなかった事を後悔した。
荒崎周辺は漁師がいっぱいいたが、彼らを避けロックガーデンに入り細い水路をうねりに遊ばれながら楽しんだ。
先端近くの浜にカヤックが2艇泊まっていたので寄ろうと思ったが、もうちょっと行ってから休憩しようとそのまま漕いでいくことにした。
荒崎はなかなか面白い。迷路のように岩が入り組んでいて、そこを通るのはなかなか面白い。行き止まりかもしれないが何となく小さいビーチがあると思いクネクネと入っていくと案の定、カヤック一艇がやっと泊まれそうな場所を見つけて休憩する。磯にはハバノリやスノリなどが付いていて滑りやすい。
13時30分、行動食を海を見ながらモシャモシャ食べてとっとと出発する事にした。
ここから今日のゴール地、芦名浜はもうすぐである。
しかしここから先は小田和湾があり、ここの航路を越えるのはなかなか苦労しそうだった。長井港から出てくる漁船と湾から出て行く漁船がしょっちゅう行き来し、なかなか渡れない。5隻通過待ちをし、横断中にも2隻通過するのを待ってやっと湾を横断できた。湾の中央部に来ても海底が見えて透明度がいいのかもしれないが非常に浅いのがわかる。
湾中央部の航路標識を越えて養殖いかだの脇を通り佐島アリーナのでかい建物に向かう。
そのまま天神島の外側を漕いで行く事も考えたがせっかくなので港内に入り、佐島アリーナの橋の下をくぐる。いわゆる「お約束」だ。
橋を抜けると笠島に囲まれているせいか、とんでもなく穏やかな水面が広がった。
カヤックの下は見事な砂地で時々アマモが見える。何もないとは思うけどとても潜ってみたいという衝動に駆られる透明度だ。キスかトラギスくらいいるだろう。
その穏やかな海面を滑るように漕ぎ進むと、今日のゴール地、芦名浜が見えた。
14時30分、芦名浜到着。
そそくさと船を上げ、キャンプ用具をまとめてパッキングし、ある程度乾いた所で船を分解する。完全に終わったのは16時近かった。
その後、知人に逗子駅まで送ってもらい電車で自宅まで帰ったのであった。
総評としては一日目、漕行時間たった40分、漕いだ距離は約4.5km。2日目は漕行時間5時間30分、漕いだ距離は約23㎞といった感じである。合計約28kmの移動という事になる。
はっきりいってトレーニングにはならなかった。多少久々に漕いだので充実感はあったが、コンディション的にはタフではなく、非常に安易なツーリングである。まぁそのぶん、三浦半島の気持ちいい所をかいま見えたので満足ではある。
冬でも温暖な三浦半島ではあるが、ひとたび気圧配置が変われば海が浅い為、けっこう荒れるようだ。そんな中漕ぎ出せばどうなるかわからないが、とりあえず天気が安定している時の冬のカヤッキングはなかなか楽しい。
というか、かなり楽しいと思う。
夏のようなお気軽な格好ではできないけど海の質で言えば全然冬のほうが気持ちいいと思う。透明度、人の少なさ、景色云々。
かなりいい感じで調子に乗ってきたので次は内房あたりに行ってみようかとたくらんでいますが・・・。さてどうするかな?それともまずは芦名から江ノ島か?