カヤック背負って、初海外旅行
①カナダ編

2004年9月4日~6日 CANADA Saltspring Island

 


 
ついに来てしまった・・・初・海外。
 国内旅行はかなりの数をこなしてきた僕だが、日本語の通じない土地への旅は今回が初めてということになる。
 沢木耕太郎さんが、その本の中で「青年は26歳になったら海外に出るべきだ・・・」
 ―と、いうような事を書いていたが、まさに僕は今年26歳。偶然にもその適齢期に北米大陸に足を踏み入れる事になった。 この海外旅行については書き出すとダラダラしそうなので、これはこれで旅行記として後に書くとして、ここではカヤッキングに絞って書いていこうと思う。
 

その① まずは Vancouvar Is から Gulf Islands へ

 カナダについた翌日、僕はカナダのビクトリアに留学しに来ている、某サイトで「人魚」といわれている女の子に会う事になっていた。ここでは人魚ではかわいそうなので「Sちゃん」ということにしておこう(この方が可愛そうか・・・?)。 バンクーバーの端にあるブリティッシュコロンビア大学の人類博物館にいた僕は、そこで友人たちとエドモントンに遊びにいっていたSちゃん達と合流した。友人2人はMちゃんとT君。2人とも日本人で大学がSちゃんと同じ大学なのだ。

 この日はもう一泊バンクーバーでするはずだったが、3人がビクトリアに帰るというので急遽ユースをキャンセルし、無理やり僕の大量の荷物をT君の車、トヨタのエコに詰め込み、一路バンクーバー島のビクトリアに向かったのだった。
 
 翌日はSちゃんとビクトリアのダウンタウンで買い物。衣類や、飛行機に持ち込む事の出来ないガソリンストーブのガスボトルなどを地元のアウトドアショップで購入する。さすが、本場カナダ。ショップの中には多数のカヤック製品がおいてあり、品揃えはすごい。しかし思ったより値段は日本と変わらないようだ。むしろ日本のほうが安い気さえする・・・。MSRのボトルがC$14もした。

 何故、買い物に来たかというと、明日からT君の友達がカヤックガイドをしているというバンクーバー島の右下あたりにあるガルフ群島の一つ、ソルトスプリング島にT君とSちゃんと3人でカヤックに行く事になったからだ。 
 
「バジャウさん!カヤック教えてくださいよ!」
「やりたい、やりたい!」
 
 お世話になってもいるし、僕もアラスカに行く前に、少し小手調べで漕いでみたかったので、よーし、よーしと、その計画に乗る事にした。移動もT君が車を出してくれるので、まったく行こうとも考えていなかったその島に行く事にした。
 
 9月4日。朝、T君が車でSちゃんと僕を迎えに来てくれた。そのまま車に乗り込み、ビクトリアを北上。おとといバンクーバーから来た時と同じフェリーターミナルにむかう。ここからソルトスプリング島にむかうフェリーに乗るのだ。

 フェリーターミナルには一般車輌と他にカヤックを積んだ車が続々と集まっている。ピックアップトラックにカヤックを積み、大型犬が顔をのぞかせているのはとてもアウトドアの国に着たなぁと感じさせる。大型車に限らず、普通の乗用車などにもカヤックが積まれ、ボートを牽引している車もある。

 「さすが本場の国は違うなぁ~」

 そう感心しているとフェリーは心臓に悪いのではないかと思うくらい、急に馬鹿でかい汽笛を鳴らし、桟橋から離れた。

 船の上からは憧れのインサイドパッセージの景色が広がる。複雑に入り組んだ入り江に海岸すれすれまでトウヒが生えている。小さな島にきれいなロッジが建ち、ヨットが停泊している。

 「ムはは・・・。それっぽくなってきたぞ~」

 街にばかりいたので、やっと自分の求めていた場所に近づきつつあるのだと思い、妙にテンションが上がる。だがフェリーはあっという間に着いてしまった。

 車に乗り込んで、そのまま島に上陸。まずは今日泊まる場所を探そうという事で地図を広げ、島の東にあるビーバー.Ptというところにあるキャンプ場を目指した。

 ところがここに入ろうと思った時、対向車の兄さんが「道が違うぞ」と言うので一同「え??」と、考えてしまった。かまわず入ってみると、確かにテントをたてている人は誰もいない、ただの森しかなかった。

 「よくわからんから、とりあえず街に行こう」

 結局、そのままこの場所を後にして、この島のダウンタウンに向かう。 ちょうど土曜日だったので、街にはバザーが出ていた。興味本位でそのバザーを覗く。

 「この島はヒッピーの聖地なんですよ」

 T君が説明したとおり、周りの人間はどうも浮世離れしたような人たちが多い。売っている物も奇妙な楽器やオリエンタルグッズや香水、石けん、ヘンプ製品など、それっぽいものが多い。隣の公園ではどこから持ってきたのかドラムセットを叩いていたり、マンドリンを弾いている人、パンツ一丁で汗だくになりながらハッキーサックをやる兄さんなど、様々な人がいる。

 いまいちどうでもいい物が多いので、結局何も買わず、T君の友人がいるカヤックショップに向かう。
 ところが友人はショップにはいないようで、代わりにその友人の嫁さんが働いている別のカヤックショップ(どういうことだ?)にいってみる事にした。
 そこで明日カヤックをレンタルさせてくれと頼む。シングルが1Dayで$65、タンデムが$80だという。どちらがいいですか?と聞かれたが、楽しくてしんどいのがシングルで、不自由で楽なのがタンデムと答えるしかない。
 二人は結局安くすむタンデムにする事にした。最初は2人が素人だと知ると、ショップのお姉さんは渋い顔をしたが、僕が

 「I am Japanese kayak Guide!」

 というと、明日の朝、かるくセルフレスキューとレスキューの説明をしてくれればオーケーということになった。
 カヤックガイドをやっていたのは1年前の話だが、これで何とかなりそうだ。タンデムなら一艇だけ見てればいいのだから僕も楽である。3人して「いやぁ~とんとん拍子でうまくいったな~」と喜び合う。お姉さんに言わせると、先ほどのキャンプ場がいいということなので、あそこにとまる事にし、スーパーで買出しをし、再びキャンプ場に戻る。
 
 キャンプ場は自動の料金払い機があり、1table、4人までで一泊$14ということだ。こりゃ単独キャンパーには辛い。
 出てきた紙を車のフロントガラスの裏に置き、あとはこちらが持っていればいいという。先ほど森しかないと思っていたところに車を停めると、周りの人はみんな森に入っていっている。週末、しかも月曜日の6日は、こちらの勤労感謝の日みたいな物にあたり、休みとあって、3連休。どうりで人が多いわけだ。

 荷物を担いで森に入りしばらく歩くといきなり広い海岸に出た。岩場の上にあるキャンプ場は足元が苔に覆われていてフワフワし、とても景色がいい。

 「いいねーイイねーこのキャンプ場!」

 僕は即座に気に入ってしまった。聞いていた外国のキャンプ場のイメージにしては人が多かったが、それはしょうがあるまい。途中、おばさんに先にいい場所があるといわれ、長々歩いていくと、途中、パークレンジャーに「それ以上行っても意味ないよー」と忠告される。なんのこっちゃ。だるかったので、ちょうど空いているテーブルがあったのでそこにテントをはることにした

 夕食は焼きビーフンと簡単に済まし、トルティーヤにサルサソースをつけて、それをつまみにビールを飲む。ソルトスプリング島の初日はこのビールが食前から呑んでいたのでかなり回ってしまい、あえなくダウン。2人が話している中、テーブルの上で寝てしまった。しかしあまりにも寒いので11時頃、3人そろってテントの中に入る。
 さてさて、明日はどうなる事やら・・・。


 

その② カナダの海でカナダ製のフェザークラフトを浮かべる日本人になること

 
 翌日、9時半にショップに来ればいいということなので8時に起き、朝食と昼食用のホットサンドイッチを作り、朝用はそのままガブリ。昼食用はジップロックに入れて各自持っていくことにする。
 ちょっと余裕をかましすぎたか、9時過ぎにキャンプ場をでる。ショップに着いたのは約束の時間を少し過ぎた頃だった。

 最初、ツアーのお客さんと間違えられて、意味のわからん事を言われたが、すぐにあっちも間違いだとわかったらしく、別の場所に通された。昨日のお姉さんとは違うお姉さんがいる。
 2人は申し込み用紙を記入し、料金を払った。何かしらお姉さんが説明し、T君とSちゃんは「あはは」などと笑っているが、僕は何を言っているのかさえわからない。アラスカに行った頃には、なんとなく表情や聞き取れる単語などで意味がおぼろげながらわかるようになったが、この頃はまだサッパリだった。

 その後、昨日言われたとおり、T君を通訳にしてレスキューを説明する。いともあっさりオーケーとなる。
 海図のコピーを渡され、ポイントの説明を受け、いざ出発ということになった。
 
 アルバイトの学生さんらしき人にスプレースカートやジャケットの着方を2人が教わっている間に、僕は慌ててカヤックを組み立てる。ヒーヒー言ってカヤックを組み立て、やっと終わったと思ったら今度はパドリングを2人に教える。カナダのパドルはフェザーリングではなく、アンフェザーなようで、これがこっちでは普通のようだ。面倒なので2人にはアンフェザーで覚えてもらった(のちに「こっちの方がいいです」と言って、2人してフェザーリングにしたみたいだけど)。

 学生さんが俺のカヤックを組み立てるのを見て「すげーっ」「アメージング!」「He is cool!」と言っていたらしい。ん~外人にクールっていわれるのはなかなか気持ちいいね。何でも彼はフェザークラフトを知らなかったようだ。カナダのカヤック関係者でも、知らない人は知らないのだね。Made in CANADAだぜと教えてやると、驚いていた。値段も教えてやると、「いや、これはマジでそれだけの価値がある。学校を卒業したら僕もこれ買うよ」と、いっていたとかなんとか。
 カヤッカーだからこそ、この値段でもこれを買いたいと思うのだな。その共通する価値観。とてもよくわかる。 なんだかんだで出発したのは11時をまわっていた。ショップの裏の干潟から舟を出す。

 まずは2人にパドリングのコツを伝授。なんだか「ぱぴよん」時代と同じことやってるな~と思った。タンデムはちゃんと漕げていなくても静水面では進んでしまうので、ちゃんと漕げているかどうかはわかりずらい。しかし内湾ということで風もなく、波もないので別に変な漕ぎ方でも大丈夫だろう。僕もゆっくりペースで海岸線に沿って進んでいく。 しばらくは船舶が係留されている静水面を通っていたので、非常に快適だ。透明度は差ほどではないが、すんだ空気と、海岸線の景色が僕には真新しく、誠に気持ちがよい。2人は僕の漕ぎ方を見ながら

 「何でそんな軽がると漕いでいるのにそんなに速いんですかー!?」と、あまり周りを見る余裕なく、必死に2人して漕いでいる。もう少しすれば余裕も生まれて景色も見れるだろう。 海岸線には、ある間隔でロッジがある。あとで地図を見たら、このあたりは住宅地みたいになっていて、かなり先にいかないと無人の海岸にはならないようだ。それがちょっと気に入らなかったが、かなり小高い上にロッジがあり、ビーチ自体はほぼ無人に近いといえた。

 1時間半漕いだところで手ごろな場所を見つけたのでちょっと早いが上陸する。

 波打ち際はゴロタだが、無数にフジツボが付いていて、なんともファルト泣かせな場所である。少ない場所を探して何とか上陸。舟を置いてから2人のエキジットを助ける。海藻が大量に打ちあがっていて、それが足にからみ付いて気持ちが悪い。 倒木の上に座り昼食。サンドイッチとバナナ。天気がよく、程よい潮風が気持ちいい。

 御飯を食べてまもなく、Sちゃんがおもむろにウエットスーツに着替え、「じゃーいってきまーす」といって海に入った。

 「まさか、地元の人もこの海に潜る奴がいるとは思わないだろうなー」

 海が大好きなSちゃんはカナダに来てからもヒマを見つけては潜っているようで、ビクトリア周辺ではケルプばかりでつまらないと嘆いていたが、ここの海は面白いらしく、

「バジャウさん!ここの海、面白いですよ!おもしろいおもしろい!」
「これが噂のジャンボヒトデですぅ!」
「カニつかまえましたけど、いりますぅ??って、イタタタ!イターイ!強力すぎるっ!!」
「うげぇ!このカニ、リングコッド食べてる!」

 ・・・などと、色々捕まえては見せてくれた。水面をクネクネと滑らかに泳ぐ彼女はまるでアザラシそっくりだった。

 今晩のおかず用、それに僕の好奇心の為に、カニを人数分キープする。3匹ともでかい。西表島のノコギリガザミのマックスサイズと同じくらいの大きさがある。2匹(ハイ)はレッド・ロック・クラブで、もう一匹は開高健ファンならご存知のダンジネスクラブである。縄で縛って、ビニールに入れ、ハッチの中にしまいこんで出発することに。
 
 こちらの海岸はつまらないので対岸にある Sister Islands に行くことに。
 しかし、対岸にわたる為には航路を渡らなければならない。ここは港の入口にまだ比較的近いせいか、ものすごい数の船が走っていて、とてもじゃないが横断など出来ないと思っていた。だが昼過ぎから少し船舶の航行も減ってきたので、これなら何とかなりそうだと思い、湾内へと吹き込む追い風に乗ってイッキにわたる事に。途中、ハーバーシール(アザラシ)が顔を出し、二人はそれに見入ってしまっっている。危ないな~もう。2人をせかし、なんとか横断に成功。あとは風に乗り、のんびりと島の周りを漕いでいった。 島の回りは穏やかなもので、行きは軽い向かい風だったのだが、こっちは追い風なので楽な物だ。

 ショップのお姉さんが言っていた「きれいな白いビーチ」が気になり探すと、それは遠くからでもはっきりわかるほど、実にきれいな純白のビーチがあった。
 

 

「うわーっ沖縄のビーチみたい」
 
 よほどの人気スポットなのか、僕ら以外にも多くのカヤッカーが休憩し、またボートで来て遊んでいる家族連れなど、たいそう賑わっている。僕らもカヤックをあげ、森に入る山道があったので、なんとなくその道に入り、山を登っていく。
 ブリティッシュコロンビア特産のサルスベリのような木、Arbutusに覆われた小高い山は午後の日が差し込み、とてもぽかぽかと暖かい。見晴らしのいいポイントでしばらく休憩。最高の昼寝ポイントだ。ふかふかの落葉と差し込む日光が心地よいネムリの世界にいざなってゆく・・・。 しばらくしてから
「ふがっ!」 ―という感じで我に返り、3人で山を降り、再びカヤックに乗り込んだ。 
 別のショップのツアーが来ていて、ちょうど彼女たちも島を出るときだった。彼女たちはどのようなコースを獲るのか見ていたら、やはりこのまま Sister Islandsを島づたいに渡っていくようだった。港の直前で対岸に渡るのは嫌だったが、いたし方あるまい。どうせわたってもつまらないのでこのまま島に沿って復路を行くことに。 島の回りは磯になっていて、そのちょっと沖にはケルプが生えている。

「ここ潜ったら、おもしろそうですねー♪」
「俺が帰ったあとも、また自分たちだけで来ればいいじゃん」
「そうですねーぇ!うはっ、楽しみになってきた♪」

 まったくこの子はものすごく楽しそうな事があると、メチャクチャうれしそうだ。一緒にいてこっちも楽しくなるので、まったくもって「癒し系」女子である。ただしこんな可愛い顔して、銛もって海に入って70cmのヒラスズキとかハマフエフキとか獲ってしまうんだから、よくわからない「ミステリアス系」女子でもある。
 
 復路は追い風を受け、まったく苦労もなくカヤックを進めることが出来た。島々は全体が森に囲まれて海から見るその様相はまさに海外の遠征報告や雑誌でしか見たことのない、あのカナダ西海岸のカヤックの景色だ。島の東側を通ると、日光が森を通してこちらに照るので、その木々のシルエットがスゴイきれいだ。岩場なので海の透明度もいい。岩にはやたらと紫色のヒトデがついていた。
 島の影から出ると、もうそこは出発地点近くの岬の先だった。思ったよりも船の航行もないので、2人をつれて一気に航路を渡ってしまう。2艇とも目立つイエローなので、カヤックも多いだけにフルスピードで走るモーターボートもヨットもスピードを落としてくれる。いやはや、皆さんお騒がせします・・・。

 航路を渡るとあっというまにスタート地点のショップの前にある干潟についてしまった。時間はまだ4時で、5時半まで借りられるというので、軽く浅場でカヤックのテクニックを教える。Sちゃんは僕がくるくる回っているので、それを教えてくれというが、そもそもタンデム艇ではシングル艇のように急に進路を変えたりするのは難しい物だ。とりあえずスエープのやり方と、スターンラダーを教えたが、多分わかってないだろうな―・・・。競争などしていたらさすがに疲れてしまい、5時に上がった。
 
「どうだった?」
「最高だったよ!!」

 ショップのお姉さんがカヤックをかたしにやってきてそう質問し、ニコリと笑った。僕にはフィールドは初めてとはいえ、なんだかカヤックガイド時代とまったく似たような事をやったなーという印象が強かったが、2人にとっては初めてのカヤック、初めてのあの視線での海上移動がよほど新鮮だったようで、かなり興奮しているようだった。よかったよかった。
 ただ、2人もまだまだ腕で漕いでいるので、しきりに明日筋肉痛だといっていた。そんな距離は漕いでないけどなぁ。

 カヤックをばらし、みんなで記念写真を撮ると、再び今日の夕飯の買出しをしてキャンプ場に戻った。

とにもかくにも・・・今日はカニですな・・・。むふふ
 

その③久しぶりに会う人とカニは食べてはいけないということ

 
 日曜だったのでリカーショップが休みだったので、何とか地元民に聞き出して酒の買える場所を探し出す。カナダは飲酒に対してとても厳しく、特定の決まった場所でしか酒類の販売ができないうえに、購入の際には身分証の提示が必要。しかも公の場では飲む事が許されない。
 キャンプ場は公の場ではないのか?と思ったが、一応飲めるので最後の夜ということで、カニもあるし、奮発してハイネケンを購入。昨日寒かったので、これまたカニということで鍋をやろうということになった。
 しかし味噌もなければ、このとき彼らの間で流行っていたチゲ鍋をやろうにもキムチがない。スーパーにあったスープベースを見ると「トムヤンクンベース」のものがあったので、それにすることにした。
 
 キャンプ場に着くとすでに6時をまわっていた。しかしこの時期、もう秋になって日が落ちるのが早くなったといっても8時まで明るい。3人で手分けをし、米を炊き、ナベの野菜を切り、カニを茹でる湯を沸かす。
 3匹のうち、ダンジネスは鍋に、レッドロックは塩茹ででたべる事にした。
 カヤックに入れていたカニはかなり弱っていたが、まだ一応生きていたので鮮度は大丈夫そうだ。海水を茹でた中にカニを放り込むと見る見る赤くなった。一煮立ちし、10分くらいが食べ時だ。その間にダンジネスを鉈で4等分にする。んー、鉈もっててよかった。
 
 カニが茹で上がり、昨日と同じくトルティーヤをサルサソースで食べながらビールを飲んでいた僕らも、いよいよカニさんに取り組む事にした。
 まずは甲羅を外す。汁気たっぷりのミソに一同、

「お、おお~」

 たまらず一すすり。海水で茹でたのでかなりしょっぱい。しかしミソをつまんでみると・・・?

「・・・・・・・うまいっす」

 イブシギンの渋さと潮の香り、豊潤なコクとが、口の中に広がる。

「こ、このはさみもらっていいですか!?」

 捕獲者のSちゃんがすかさず巨大なハサミに取り掛かる。鉈のミネで殻をこづくと、ホックリした身がギュウギュウに詰まっている。

「なんじゃコリャ!!ナンダこれはーッ!!」」

 女子の台詞じゃないだろ。しかしそのくらいの美味さのようだ。T君ももう一つのハサミに取り掛かりだした。感想なし。
 「・・・・・」
 「・・・・!」
 「・・・・♪」
 「・・・・!!」
 ものすごい集中力で3人がカニに取り組む。周りでは楽しそうに他のキャンパーがおしゃべりしながら食事をしている中、暗闇の中でおかしな日本人は黙々とカニと格闘していた。はっきりいって僕もこの時は記憶があまりない。とにかく、「でかい身をほり出す!」ということに全精力をつぎ込んでいた。あの集中力を勉強や仕事にも持ちたいものだ。
 
左から①手前の白っぽいのがダンジネスクラブ。レッドロッククラブは少し小さいかな・・・?②鉈でカニを真っ二つ。③そのカニをさらに4等分に。いいだしでそ~④椎名誠風に言う、「いわゆる小さな幸せの形」・・・という奴ですな~⑤鍋です♪    
 
 気付くと開けたばかりのビールを一口も飲まぬまま、カニを完食していた。あわてて思い出し、ゴクリと一口。

「「「あああーーーうううまままかかかっっったたた!!!」」」

 3人同時に我に返る。はっきり言って人と会食する時はカニを食べちゃ駄目だ。カニはいかんね。よくない。話にならない。このときもそれまで話していた事をほとんど忘れてしまった。

「カニ美味しいなー。これからは週末潜ってかにとって、毎週末カニパーティーだね。ムフフ」
 
 Sちゃんが不敵に笑う。なんでも前回も獲ったにはいいが、家の前に放置していたら死んでしまい、食べれるか疑問だったので捨ててしまったというのだ。そのもったいなさと、今回のこのカニの美味さに悶絶し、次からは必ず捕獲して食べると妙に気合が入っていた。 それからしばらくして今度はカニ入りのトムヤンクンができた。これを御飯にかけて食べる。

「ん~!!スッパイ!辛ウマ!」
「カニのだしがいいな~」

 スープも美味かったが、具として入っているカニも旨く、結局ここでもまたカニの極地に陥り、おびただしいカニの殻を撒き散らし煩悩を忘れて、ひたすらカニのみに集中するのだった。 

 感想を簡単にまとめれば、はさみのでかさはレッドロックに軍配が上がるが、肉質ではダンジネスのほうが美味かった気がする。しかもこのダンジネス、ウチコが入っていたのでメチャクチャ美味かった。

 この日はかなり満足し、それまで無言だった事もあるだろうが、3人とも夜中の12時くらいまで話をしていた。
  天気がよく、星がよく見える。北半球の上の方なので北極星がかなり頭上に近いところにある。
 何か気配を感じ、ライトを照らすと、なんとすぐそばまでリッパな角を持ったオスの鹿が僕らのいるテーブルの近くまで接近していた。

 「さすがカナダは野生動物との距離が短いな~」

 そう実感したのをきっかけにさすがに寒くなり今日も疲れもあるのか、ごく普通の流れで3人テントの中に入った。9月とはいえカナダの夜はよく冷えた。3人でぎゅうぎゅうに寝ると、隣の人間のぬくもりが心地よいくらいだった。
 

 
 

その④あっという間に帰ってしまうこと

 
 次の日、相変わらず朝の弱い僕はみんなが起きてからしばらくしてテントから這い出る。目の前が東の海なので、テントを開けると強力な朝日が目に差し込んできて、一気に目が覚める。

 昨日のスープの残りを御飯にかけて食す。昨日よりもカニの味が出ていて、まっこと美味い!朝から幸せな気分に浸る。
 とくにいつ帰ってもいいということで、ちんたらキャンプ道具をかたし、昼前くらいに車に乗り、暇つぶしに島をドライブして2時のフェリーでビクトリアに帰った。
 
 今回はカヤック初めての二人にカヤックとはこんなものだよというものを教えるためだったので、僕にとっては少々物足りない物だったが、2人にはとても刺激的なものだったらしく、「また来よう、またやろう」と、誘い合っていた。確かにこれだけいいフィールドと、カヤックをやっている人口があるなら、上達するのも時間の問題だろう。カヤッカーが増えてくれれば僕としても嬉しいな~。
 カナダ、バンクーバー島はこのガルフ諸島以外にも素晴らしいフィールドはいっぱいあるようで、とくに内側よりも太平洋側にいい場所が多いようだ。各種ツアーも、結構外で行われている事が多い。

 本場、バンクーバーの地形は確かにカヤックに適した場所のようだ。この環境は漕いでいるだけでも楽しい。

 アラスカに向かっての小手調べではあったが、いやいや、いいところでした。
 

INFORMATION

SSALT SPRING ISLAND
交通:
ソルトスプリング島へはビクトリアのSWARTZ BAYからフェリーで30分くらいである。
BC Ferries 888-223-3779(www.bcferries.com)
で、大人が往復$6.50、車が一台$20で乗れる。カヤックショップ:
今回僕らが利用したショップは「ISLAND ESCAPE」(電話番号調べ忘れた)というショップ。だが、この他にもこの島にはたくさんのショップがある。島の中心地でもある Ganges Harbour に行けば、いくつも看板があるので現地で決めても大丈夫だろう。

キャンプ場:
僕らが泊まったのは Ruskle Provincial Park という公園内にあるキャンプ場。本文中にあるとおり、一泊ONE Table で、4人までで$14。支払方法はcashでも大丈夫だが、紙幣が使えないのでコインを用意しなければならない。一般的にカードで支払ったほうが無難。水は井戸水。トイレは多く設置してある。とにかくきれいなキャンプ場なので苦労はない。ただ日本のキャンプ場のように炊事場はない。焚火も基本的に禁止。ファイヤーサークル内でのみ可。
連絡→K2 Park Services 1-877-559-2115 (www.gocampingbc.com)

買い物:
島のいたるところ(と、言ってもほとんど森だが)に食料品店やリカーショップはあるが、Ganges Harbour に行けばスーパーやホームセンターなどもあり、たいていの物はそろう。キャンプ道具としては白ガスなどもここで手に入る。

移動:
移動はほぼ車がないと辛い。自転車で周っている人も多いので、自転車持参でもいいが、坂が多いのでキツイヨ。たぶん。
カヤックがある人はフェリーの着くFulford Harbour から出して、そのまま島づたいに北上すればRuskle Provincial Parkに到着できる。