Bartllet  coveにたどり着くと、一人の東洋人が話しかけてきた。英語だったが、訛りが日本語に近い。
「あれ…?」
 あっちも気がついたようだ。
「日本人ですか?」
 それがナカジマさんとの出会いだった。
 ナカジマさんは関東近郊のキャンプ場で働いていて、シーズン前のこの時期に休みをもらってアラスカに来たという。アンカレッジ在住の友人から今は亡きファルフォークのファルトを借りてグレイシャーベイにクジラを見に来たという。
「前回来た時は 8月で、この Bartllet  coveの入江の中でもクジラが見られたんだけどね…。さすがにこの時期はまだ早すぎたみたいだな~」
 予定は未定だというナカジマさんと、ジュノーに戻るまで暇な僕はちょうどお互い暇つぶしの相手ができ、その後も二人でシークレットベイにカヤックで行ったり、バートレットレイク・トレイルに行ったりした。この模様はまた別に報告したいと思う。
 
 Bartllet  coveを発つ前日、僕はナカジマさんを誘って 2週間ぶりにグレイシャーベイロッジのシャワーを浴び、レストランでビールを飲んだ。つまみのつもりで頼んだナチョスが恐ろしいほどの山盛りで夕飯が食べられなくなるくらい腹にもたれたが、暖炉の前でふかふかのソファーに座りながら飲んだアラスカンアンバーは美味かった。
 カヤックの旅が終わって、ジュノーに発つまでの 3日間、何をしようかとかなり持て余していたのだが、ナカジマさんの存在でかなり有意義に過ごすことができた。キャンプ場にクマの親子が侵入する騒動や、隣のキャンパーの子供との交流など、僕一人では英語が理解できずに一人塞ぎ込んでいただろうから、彼の存在は非常にありがたかった。
 何より 2週間近く無人の海を漕いできて、戻ってきた時に日本語で話をできる人がいるというのはとても嬉しかった。それまで体験してきたことを、驚きも、恐怖も、興奮も伝えることができる相手がいるというのは精神的にとても有益なことだった。
 ナカジマ氏にはこの場を借りてお礼申したい。とは言っても、僕自身も彼にとっては良い出会いだったと勝手に思っている…けど。
 
 619日。キャンプ道具のパッキングをすまし、 12時半にレンジャーステーションの前に行くと、ちょうど僕を待っていたかのようにタクシーが止まっていた。乗っていくことを伝え、とりあえず借りていたベアーコンテナをレンジャーに返しに行く。お世話になったレンジャー達にグッバイというと、皆にこやかに声をかけて別れの挨拶をしてくれた。
 ナカジマさんが走ってきて、アドレスを書いた紙を渡してくれた。僕も急いで連絡先を書いて渡す。時間がないので殴り書きで読めたかどうかわからない。この時、名刺を作ろうと思った。
「それじゃ、また日本で会いましょう!」
 握手をしたのち、まだかまだかと待っている運ちゃんのネーチャンに「OK」と手を振り、タクシーに飛び乗った。
 
 来る時にガステイバスの街に咲いていた一面の黄色いタンポポは、一面の綿毛になっており、真っ白に草原を覆っていた。時間の経過を感じずにはいられない。それだけの時間、僕はカヤックの旅をしていたのだ。
 1340分のジュノー行きの飛行機には僕しか乗らず、運転手は珍しく女性パイロットだった。搭乗したかと思うとあっという間に離陸し、不安定な気流の中、インサイドパッセージの上空を飛んでジュノーの街に着陸した。とにかく、淡々と時間が過ぎ、事が進んでいく感じだ。
 ジュノーに着いてからはタクシー代をケチってバスに乗り、ダウンタウンに向かったが時間がかかるものの、特に問題なく行くことができた。バスの中から乗り降りするお客の顔を見るだけでいい暇つぶしになり、外国に来ている気分に浸れた。今更ながら外人に囲まれることで自分が異国の地にいることを再認識していたのだ。
 ダウンタウンに着くと荷物をユースホステルに置きに行き、その後は町をいつものごとく散歩した。天気が良く、日の良く差したウッドデッキの上を歩くのはなかなか気持ち良かった。
 なんだか、とにかく無事に街まで帰ってこれたという安堵感がものすごく安心する。平和だなー…と、いう感じなのだ。人がごみごみした感じが良い。たぶん翌日にはうざく感じてくるのだろうが、この時はむしろ好ましかった。
 この日はユースに泊まり、翌日は前回も行ったアラスカ州立博物館に行ったりして過ごして一日を過ごし、夕方はユースで夕食だけ作らせてもらう。この日の深夜、正確には翌日の AM1:00にシアトル行の飛行機に乗るので、それまで荷物を持って移動するのがだるいのでこの日の宿泊分もお金を払うから荷物を置かせてシャワーとキッチンを使わせてくれと交渉したら、タダでイイと言われたのだ。申し訳ないので夕食だけソソクサと作らせてもらい、食べてから空港に向かった。
 長いこと、空港で出発の時間まで待つことになった。この時のために取っておいた村上春樹の小説を引っ張り出して読んでみるが、なかなか本の世界に入っていくことができない。すぐに読むのをやめ、天井などを見つめてしまう。
 そこに思い浮かぶのはグレイシャーベイの風景。雪をかぶったフェアウェザーの山々だったりする。
 
 後日、後輩に遠征時の写真を見せると、「同じような風景ばかりですね」という反応が返ってきた。
 確かに、岩と雪と森、そして海しかない。森も 4種類の木しかない。僕自身も帰国後に写真を見ると似たような風景ばかりを撮っており、これだけでこの旅行の全体像をつかむには難しいだろうと思った。僕の写真のテクニックが至らない、持っていったデジカメの性能の限界ともいえるが、むしろこれは本物の景色を肉眼で見たものと、写真でしか見ていない者との違いを感じずにはいられなかった。
 グレイシャーベイの水路を漕ぎ、前後左右を岩と氷に囲まれた光景というのは、僕にとってはとてつもない迫力で、ものすごくインパクトのある、美しい場所だった。
 はるか遠くの山々の間を流れる氷の河。荒涼とした氷河の後退跡。その上空を飛翔するハクトウワシ。クマに緊張する神経の中で見るそれらの光景、動植物の営みは、五感を通して得た日本のどのフィールドで体験したものとも違う、迫力と発見、感動があった。
 今の世の中、映像も音響も発達し、行っていなくても行った気になれるような情報が蔓延している。だけど、やはりそれは行った気分になっているだけで、実際には行っていないのだ。つまり、本物を知らない。
 本物は次元が違う。
 ただのエンターテイメントではない。自分の人生に大きく影響を与えるほどの感動がある。
 このグレイシャーベイの旅はまさに僕にとってそれを深く考えさせられた。諦めずに、この土地に来て良かったと、えらく満足した。
 
 ただの観光で終わるくらいの旅行なら、しない方がましだ。行った場所を増やしていくだけのコレクションのような旅行も無意味だ。
 人生の時間もお金にも限りがある。その中で自分の本当に求める土地に焦点を当て、その土地に行き自己実現、自己発見をしていくこと。それが旅というものだと思う。いろいろな物を見たい、いろいろな場所に行きたいという好奇心に満ちた旅ができる若い時期を過ぎた今の僕には、見た物の表面を舐めとるような理解の仕方ではなく、その奥にある本当に大切な物を理解する力が求められているような気がする。そしてそれを伝える力も…。
 自分の中でわかったつもりでいるもの、理解したつもりであるもの。
 そういうものを一つ一つ咀嚼して本当の博識、見聞を得るような旅を今後もしていけたらいいと思う。
 
 深夜、 130分にジュノー国際空港を離陸した飛行機は、雪をかぶった山々の隙間を縫うように上空に舞い、何回か旋回したのちシアトルに向かって飛び立った。
 座席の窓から闇夜を見ると、地平線はうっすらとオレンジ色に染まっている。白夜に近い北の空はこの時間になっても完全に夜になることがない。窓から伝わってくる冷気を感じながらその幻想的な光の線を見ていると、今更ながらずいぶんと遠い、非現実的な場所に来ていたのだなぁと思い、思わずニヤけてしまった。
 難しいこと考えたって無駄だ。世の中には面白そうな場所がいくらでもある。それを知ったら、旅に出ればいいのだ。
 それを何よりも、自分が望んでいるのであれば。



 今回のグレイシャーベイ遠征の情報をくれた皆様、この場を借りてお礼申し上げます。
「カヤックをしに海外へ出かけよう」管理人様には当地の情報のほか、激励までいただき、大変恐縮であります。ありがとうございました。
 グレイシャーベイを単独で一周した経験を持つ「 POP  homepage」の管理人様にも当地のカヤッキングに関する情報をいただきました。ありがとうございます。
 また、「かごしまカヤックス」の野元氏の昨年(2006年)行われた当地の遠征報告もたいへん有益な情報となりました。この場を借りてお礼させていただきます。
 
 だいぶ掲載時期にずれが生じてしまいましたが、このレポートが今後グレイシャーベイにカヤックをしに行く人の情報の足しになればありがたいと思います。読んでいただいた皆様、どうもありがとうございました。
 

2007104
bajau  赤塚

 

 INFORMAITION

≪ Glacier bay trip 旅の情報 ≫

※2007年の情報です。こちらを参考にし、現状はお調べ直してください

■ジュノー(Juneau)へ行く

 
 ジュノーはアラスカ航空が出入りしているので、日本からはこの航空会社と提携しているノースウエスト航空で行くのが安くて便利。
 日本からはアメリカのシアトル経由、アラスカのアンカレッジ経由が最もポピュラーだと思う。
 ただ、空路ではなく、海路で行く方法もある。前回僕が利用したアラスカンハイウェイフェリーがそれ。ベイリンハムから出ており、インサイドパッセージの主要都市に寄りながら終点、スキャングウェイまで行く。もちろんその逆もある。時間がある方はのんびりと、フェリーでクジラなど見つつ行くのもいいかもしれない。
ノースウエスト航空

:http://www.nwa.com/jp/jp/

アラスカ航空

: http://www.alaskaair.com/

アラスカ・マリン・ハイウェイ

:http://www.dot.state.ak.us/amhs/index.html

■ガステイバス(Gustavus)へ行く 

 
 グレイシャーベイに行くにはまず、ガステイバスに行くことから始まる。アラスカ航空だとジュノーからグレイシャーベイ行きの飛行機があるが、これはおそらくガステイバス空港のことである。
 ガステイバスへの行き方は、ジュノー国際空港から各航空会社を使って行くのが普通。他の都市(シトカ、へイング、スキャグウェイなど)からも飛行機が飛んでいるので、HPで確認した方が早いだろう。
 ガステイバスではなく、グレイシャーベイの入り口にあたるバートレットコブに直接行くのならばフェリーもある。
 僕が前回行った時はオフシーズンに入ってしまって無かったが、翌年からは存在そのものがなくなっていたようだ。フェリーで行くことを予定に入れていた人はひどい目に合っている。
 しかし今年はグレイシャーベイロッジがジュノー~バートレットコブ間のフェリーを一般の人も利用できるようにしたため、海路で行くこともできたようだ。ただし期間がひどく限定されていて、出発もジュノーのダウンタウン前の港を夕方8時半ころ出発、バートレットコブに到着するのは夜の11時と、なかなか利用しにくい時間帯となっていた。
 来年に関しては不明なので詳細はグレイシャーベイロッジのHPを参照のうえ、メールにて問い合わせてみる方がいいだろう。
 ガステイバスの空港からグレイシャーベイの入口であるバートレットコブまでは15kmほどある。通常はタクシーを使うしかないが、運が良ければグレイシャーベイロッジのバスか働いている人の車に乗せて行ってもらえるかも…しれない。
タクシーの料金は$13前後。
 
飛行機
Wings of ALASKA :http://www.wingsofalaska.com/index.php

フェリー
グレイシャーベイ ロッジ :http://www.visitglacierbay.com/
 

■グレイシャーベイ国立公園
(Glacier Bay National Park and Preserve) 

 
 グレイシャーベイ国立公園はジュノーの近く、アラスカ州南部にあるアメリカの国立公園で、1925年2月25日、アラスカ州南東のグレイシャーベイの周辺地域を最初は国定公園として布告されていた。
 1980年12月2日、アラスカ国家利益土地保護法 (Alaska National Interest Lands Conservation Act)によって、グレイシャーベイ国立公園となった。
 公園の面積は、13,287 k㎡(5,130 平方マイル)。公園のほとんどは、自然保護地域に指定されており、その面積は公園の10,784 k㎡(4,164 平方マイル)に及ぶ。

 グレイシャーベイ全域は、1750年まで氷河に覆われていた。
 イギリスの探検家、ジョージ・バンクーバー提督は、1794年、グレイシャーベイの南端で、当時はまだ氷で覆われていたアイシー海峡 (Icy Strait) を見つける。グレイシャーベイ自体もほとんど氷に覆われていた。この時、高さ1200m、幅30㎞にもおよぶ氷河を確認している。
 1879年、ナチュラリストのジョン・ミューア (John Muir) がこの土地を訪れた時、氷がほとんど湾からなくなり、約77 km(48マイル)の距離を後退していることを発見した。
 1916年にはグランド・パシフィック氷河 (Grand Pacific Glacier) は、タール入江 (Tarr Inlet) の奥、グレイシャーベイの入口から約100 km(65 マイル)まで後退した。これは記録に残されている中で最も早い氷河の後退である。

 グレイシャーベイが何故、「氷河湾」という名前が付いているかと言うのは、以上のことから来ている。大小16の氷河が流れ込んでいるということもあるが、背後にそびえる4000m峯の山々、4600mのフェアウェザー山脈から流れ落ちる氷河は僅か30㎞で海抜0まで流れついてしまう。これほど急斜面を流れ落ちる氷河は世界でも珍しい。そして劇的な氷河の後退。
 このような特殊な環境から多くの科学者が、いろいろな目的でこのフィールドを研究対象にしている。
 氷河の後退によって地球環境の変化(温暖化など)を調べたり、その後の植生の変化、動物の生息などの遷移の過程などを調べるなど、多種に及ぶ。
 そのため、グレイシャーベイはクルエーン国立公園、ランゲル-セント・イライアス国立公園、グレイシャーベイ国立公園、タッチェンシニー-アルセク公園から成るクルエーン/ランゲル-セント・イライアス/グレイシャー・ベイ/タッチェンシニー-アルセクという国境を越えた公園の一部として、ハイイログマ、トナカイ、ドール・シープの生息地としての重要性、壮大な氷河と氷原の風景の故もあり、1979年、UNESCOの世界自然遺産に登録されている。

Glacier Bay National Park and Preserve:

http://www.nps.gov/glba/                               

http://www.glacierbay.org/index.html           

http://www.glacier.bay.national-park.com/

UNESCO世界遺産公式サイト:

http://whc.unesco.org/en/list/72

■バートレットコブキャンプグラウンド

 
http://www.glacier.bay.national-park.com/camping.htm
 バートレットコブのメインハーバーから約1/4マイル(400m)行った所に、無料のキャンプ場がある。5月から9月一杯まで利用でき、最大連続14日間滞在できる。ここでキャンプする人はビジターインフォメーションステーションで受付を済ませ、使用説明を聞かなくてはならない。 このキャンプ場は非常にきれいで、使いやすい。ただし食料の管理に関しては徹底されており、食料は必ずフード・チャーチという建物の中のみに保管し、テントの中には持ち込まない。そして食事はテントから100m以上風下に離れた潮間帯で行わなければならない。これはもちろんグリズリーやブラックベアーなどの熊や狼などをキャンプ場に近づかせない為、もしくは人間慣れさえない為の配慮である。 設備はトイレとフードチャーチの他に薪置き場とドライルームという洗濯物の乾燥場があるだけ。水はないのでビジターインフォメーションステーションの前にあるトイレから汲むかしかない。もちろん炊事場などない。
 

■グレイシャーベイロッジ

 
グレイシャーベイ ロッジ :http://www.visitglacierbay.com/
 前回来た時はオフシーズンに入ってしまったので利用できなかったが、本来バートレットコブにはグレイシャーベイに来る観光客のオフィシャル施設としてこのロッジが使われている。宿泊者はもちろん、キャンプ場の利用者、または他のペンションなどに泊まっている観光客もロッジ内の施設・アクティビティーを利用できるようだ。
 僕が利用させてもらったのはキャンプ場にはないシャワー($2.0 タオル付)と、レストラン、売店である。レストランは宿泊者のランチ、ディナーの時間とかぶらなければキャンパーの利用も大丈夫。ビールは各種$5で飲める!売店は簡単なアウトドア用品、行動食、本、スナック類などが買える。嗜好品がなくなってきたバックカントリーからの帰りなどはコーラなども売っていて嬉しい。
 また、2階はナショナルパークのビジターセンターになっており、書籍の販売なども行っている。調べ物などをするには資料もそろっており素晴らしい。
 また、カヤックのレンタルやツアー、ボートでのピックアップサービスなどの受け付けもここで行える。
 ただし、前回のレポートを読んだ方はわかると思うが、ナショナルパークが解放されている間、常に開いているわけではなく9月の上旬には閉鎖されてしまうので事前にオープン時期を調べておいた方がいいだろう。もちろん、このロッジが開いていなくてもグレイシャーベイには行けるが、よほど完璧に装備などの支度を整えておかないとまずいので注意。ピックアップもできなくなる。
 

■バックカントリーに入るために

 
 グレイシャーベイでカヤックを漕ぐには、国立公園内でのキャンプ許可が必要になってくる。つまり、無人地帯(バックカントリー)にはいる許可という事になる。
 と、言っても簡単なもので、ビジターインフォメーションステーションで、カヤックか、トレッキングかを言い、自分の名前や住所、国などの個人情報を記帳に記入し、カヤックなら自分のカヤックの色、PFDの色、テントの色を伝え、20分ほどのビデオを見せられるだけである。
 エマージェンシーグッズの有無(鏡やホイッスル程度でよい)も聞かれるが、熊よけスプレーなどの有無は聞かれなかった。ただし、銃の有無は聞かれる。これはグレイシャーベイ国立公園内での銃の所有が一般人は禁止されているからだそうだ。通常はベアースプレーを持参するしかない。
 ベアスプレーは前回来た時は$33くらいだったが、今回は$46と、値上がりしていた。しかし命には代えられないので、2つは携帯していた方が良いそうだ。ベアスプレーはジュノーのアウトドア用品店かグレイシャーベイロッジ内でも購入できる。
 

■グレイシャーベイでのカヤック
 
◎カヤックを持っていく人

 僕のようにカヤックを持っていく人は、まず、出国の段階から問題がある。それはとりあえず重量問題だ。
 ノースウエスト航空(以下NWA)の日本発着太平洋路線の場合、ビジネスクラスの場合は手荷物3つまで(ただし2つは三辺の和が158cm以内、32kg以内で、もう一つは三辺の和が115cm以内、18kg以内)だが、エコノミーの場合、手荷物は一つ23kgを、2つまでと決まっている(三辺の和は158cm)。機内持ち込みはもちろん一つ。詳細はNWAのホームページを見て確認してください。
 ここで重要なのはカヤック自体の重さだ。僕が持っていったフェザークラフトの「k-1」は、船体自体が23kgということなので、トラベルバックパックの重さを考えると多少、オーバーしてしまう。だから多少、リブやパドル、ラダーなどを取り除けば何とかなる。そして、もう一つの荷物はできるだけ軽量化し、キャンプ用具や個人備品は極力最小限のものにし、現地で購入できるものは現地で買った方が安上がりになるかもしれない。これを20kg未満にしておけば、こっちにカヤックの残りの荷物を入れ、それでも重いようなら衣服や本などの重いけどかさばらない物などは機内持ち込み用の荷物に入れれば、何とかなるはず。僕はこれでギリギリ超過料金を払わずに済んだ。
 k-2を持っていく人、もしくはカメラ機材などが多い人などは超過料金を覚悟するか、リッチにビジネスで行くのがいいだろう。
 逆に、ジュノーからの帰国の際は、明らかに超過料金を払いそうな重さなのにもかかわらず、何も言わず通してくれる。アメリカという国は入国する際にはいろいろ面倒臭いが、出国する者に対してはかなり大らかなようです。

 ジュノーからガステイバスまではフェリーの場合は問題ないと思うが、飛行機で行く場合、Excess Baggage(超過料金)を取られる。1lbにつき、¢30~50とまぁまぁ。(1kg=120円くらい?)。上限は300lbくらいとなっている。
 僕の使った「Wings of ALASKA」の場合、1lbにつき$0.50(¢50)取られたので、行きは食料などが満載だったので超過料金が$60 、帰りは約$40 だった。合計航空費とは別に$100近く払ったことになるが、それで自分のカヤックが持って行けるのならば安いものだと思っている。

◎カヤックを持っていかない人

 ガステイバスには多数のシーカヤックショップがあり、ツアーやレンタルを行っている。
 どこもパソコンがあり、たいていHPがあるので日本にいる段階で予約の連絡を入れることができる。一日、シーカヤックが$60くらいなので、僕と同じ10日間でやれば$600くらいかかることになる。しかし日本からカヤックを持って行く手間、海外用に新しいカヤックを買う事を考えれば安いものかもしれない。

 また、ツアーに参加する方法もある。現地のアウトフィッター(下記参照)とともに出るのもいいが、日本国内でグレイシャーベイのツアーを企画していることもある。この場合、色々とパックになっていて旅行に出るまでの時間に制限がある人は無理に個人遠征をせずとも、いたせりつくせりのグレイシャーベイを現地に着いてから楽しむことができる。
 

◎とにかくカヤックをやる人

 どちらにせよ、グレイシャーベイでカヤックをやる場合はバートレットコブにあるネイチャーステーションで出発到着日時、旅程、カヤックの色、借りている人は借りているショップ名、PFDの色、エマージェンシーグッズの有無、テントの色、ジャケットの色、銃の所持有無などを報告し、バックカントリーに入る講習を受けてからでないと出発出来ないことになっている。
 その際、細かい旅程を聞かれることになる。何日に、ここ、次の日はここ、というような大体のビバーク予定地をあらかじめ報告しておかなければならないので、現地で説明するのが面倒臭い人はあらかじめ英語でスケジュールを書いておき、当日レンジャーに渡した方が早く話が運ぶと思う。
 

■クマ対策

 
 キャンプ場内でもそうだが、国立公園内(バックカントリー)で一番気をつけなければならないのが熊である。
 キャンプ場内ではフードチャーチに食料を管理するが、バックカントリーでは各自で管理しなければならない。レンジャーステーションでは出発の際の申請時にベアーコンテナをレンタルしてくれる(もちろん無料)。この時の貸し出されたベアーコンテナのナンバーも控えられるので失くさないように、しっかり帰ってきたら返しましょう。
 非常にかさ張るのでカヤックの旅には邪魔ですが、熊に人間の食べ物の味を覚えさせるのは当人はもちろん、後から来た人間の生命をも脅かすことにもなるので、面倒くさくても我慢して使う事を勧めます。
 食料は自分のテントを張る場所の風下に100yard(約90m)離して置き、石などで覆うと良いそうです。食事ももちろんそのくらい離れて行い、潮間帯で行うこと。雨が多いので、タープテントがないと辛いです。
 テント内での食事はかなり危険なのでやめた方がいいそうだ。

フードコンテナ。嵩張るのでカヤックのパッキングはたいへん。コインかマイナスドライバーも必要。

 
 上陸地、ビバーク地の決め方は人それぞれだ。僕の決め方と、出会った人達ではかなり異なっていた気がする。
 僕は知床の新谷さんに見習って、三方を崖に囲まれた場所を好んだ。そして、新谷さんがしているように大きな声で自分の存在をアピールしながら上陸した。熊の侵入を防ぐためだが、熊は結構行動範囲が広く、ちょっとした崖なら登ったり降りたりできるので、なまじ中途半端な場所では逆に危険かもしれない。
 出会った人達は妙に見晴らしがいい所にあるブッシュの脇などにテントを張っていたが、見晴らしのいい場所はいかにもグリズリーが出そうな場所なので僕にはまねできなかった。でも、お互いに「何かが来た、何かがいる」をいう事を視認しやすいという意味では良いかもしれない。ただ単に、彼らが眺めのいい場所が好きなだけなのかもしれないが…。
 テントを張る海岸と森林の境目は獣の通り道になっているせいか、たくさんの足跡があり、そんな場所にテントを張れば就寝中にテントのそばに何かしら生き物が来るのはわかりきったことだ。少し森の中にテントを張るか、まったく足跡のない場所を選ぶかだが、僕は後者をできるだけ選択した。森の中は視界が悪すぎて怖い。なるべく島をビバーク地に選び、上陸してからは懸命に獣の足跡、糞の有無、またそれが古いか新しいかを検討してから、テントを張るかを決めた。
 その決断一つでクマと遭遇するか、しないかが決まるのだ。草食動物になった気分で僕は怯えながら毎夜、寝た。
 

■ジュノーの街

Juneau Convention & Visitors Bureau Centennial Hall Visitor Center:

http://www.traveljuneau.com

 
◎インターネットが使える場所
 ジュノーのユースホステルで前回来た時は日本語が使えたのだが、今回来た時は新しいパソコンになっており、日本語は使えない。
 ダウンタウンの港の目の前にある図書館の30分使えるパソコンの一番左の奴は何故か日本語が読める。変換機能がないので日本語はうてないが、読むことはできるので日本のHPも見ることができる。ただし、順番待ちがかなり面倒臭い。
 あとは各ホテルに備え付けているパソコンで日本語が使えるものもあるようだが、詳細は不明。日本人相手の旅行代理店もあるようなので、本当に困った時はそこを探して貸してもらう方法も無きにしも非ず・・・か?
 
◎買い出しに便利な場所
 ジュノーのダウンタウンにある「AP MARKET」が便利。ユースからも比較的近い大型スーパー。ホワイトガソリンから食糧、日用品まで大概のものはそろう。隣りにはリカーショップやアウトドアウェアーショップなどもある。
 オーガニック系の食料が量り売りで買えるのはダウンタウンの中央にある「レインボーストアー」。ドライフルーツやナッツ類、穀物などはここだと質のいいものが売っている。ただし多少値は張る。
 ちょっとダウンタウンから離れるが、空港のそばには北米の大型チェーンスーパーの「safeway」や、「fred meyer」などもあり、ここだと釣り具やフィッシングライセンス、ベアスプレー、その他のアウトドア用品なども購入できるので時間がある人はここでまとめて買ってしまうのもいいと思う。
 空港のそばには「ナゲットモール」というショッピングモールもあり、ここの中にあるアウトドアショップ「Nugget Alaskan Outfitter」は品ぞろえが多くて便利。日本で買えなかったものも手に入れられる。アウトドア用品店では他にダウンタウンにもう一軒(Foggy Mountain Shop)あり、取り扱っているメーカーも日本でなじみあるものばかりなので安心して購入できる。ただし値段もそれほど変わりない。
 地図はダウンタウンにある本屋で購入できるが、Glaicer Bayのものが売り切れている場合もあるので日本で購入していっても良いだろう。
 
◎安い泊まる場所
★ジュノーインターナショナルユースホステル
    http://www.juneauhostel.org

 ここがどうあがいても一番安い。いまどき一泊$10で泊まれる場所は北米でも無いらしい。日本でもこれだけの質が高い場所で約1000円で泊まれる場所なんて、滅多にないだろう。
 一応、予約はできないことになっているが電話をすると予約してくれることもあるらしい。
 チェックインは朝9時までと、夕方5時から。チェックアウトは朝の9時。AM:9:00~PM:5:00まではホステルの中にいてはいけないので、半強制的に外出させられる。5時までは入れないので、もし5時前に来た人は荷物だけでも庭に置かせてもらえばいいと思う。僕も勝手に庭に荷物を置いて街をぶらついていた。
 ここの難点は、急な坂道の上にあるということだ。重い荷物も背負い、カヤックを引っ張ってくるにはきつ過ぎる。体力に自信のない方はタクシーで来ることを勧めます…。
 

■その他資料・有効サイト

 

地球の歩き方

アラスカダイヤモンド社 最近はアウトドアをやりに行く人にも使える情報が多く記載されているので結構使える。

アラスカ 光と風

福音館書店 星野道夫 EQUIPMENTのBookを参照にしてください

Alaska State Museum

https://museums.alaska.gov/asm/

本文にもある通り、非常に素晴らしい歴史博物館。カヤックをやらなくてもジュノーに行く際は是非訪れて欲しい場所。

≪ Glacier bay trip カヤッキング情報 ≫

■パドリング時のウェアー

 
 基本は化繊のアンダーに薄手のウールセーターを着て、パドリングジャケットを着る。下は化繊のパンツに化繊のジャージを履き、防水のためにレインウエアーのパンツをはいた。帽子にはウールのニット帽。
 雨の時や寒い時はこの上にレインウエアーを羽織ってフードを被った。
 晴れの日などの気温が高い時は通気性の悪いパドリングジャケットを脱ぎ、レインウエアーだけにした。帽子はニット帽ではなくグアテマラキャップになる。
足回りは晴れの日は普通のマリンブーツを履いたが、ほとんどは陸上と同じく長靴を履いていた。 グレイシャーベイの場合、前回の遠征から波の荒い状況での上陸、着岸がほとんどないだろうと思っていたので下半身はそれほど濡れないと考えた。当初はウエットスーツを着ようとも思ったが、面倒くさいし暑い、それに何よりかさ張るので持ってこなかった。
 足回りはマリンブーツをパドリングシューズ変わりに使って行けばいいと思っていたが、水が入ることがないと思って長靴のままでいた。この方が足が温かくて結果的に良かった。でもこれは波の穏やかなグレイシャーベイだから可能なことだろうから、他のアラスカのフィールドに当てはまるとは言えないだろう。通常の日本国内にある長靴より丈が高い物だったのも、良かったと思う。
 

■食事 

 ◎朝飯

 パスタにマヨネーズと醤油、ガーリックソルトをかけた物。あとはコーヒー。

 ◎昼食

 基本的には無し。行動食(キャラメル、スニッカーズ)のみ。たまに休憩する場所を見つけた時はインスタントラーメンを食べた。

 ◎夕食

 米の中に刻んだ玉ねぎとショルダーベーコンを入れた炊き込みごはん(ほとんどお粥状態)を作り、それにバター及びマヨネーズ、醤油をたらした物。
ベーコンがなくなってからはツナ缶を代わりに入れた。
 後半は飽きてきたので玉ねぎ炊き込みごはんに、ツナ缶マヨネーズをおかずにして食べたりした。
 紅茶を1リットルほど作って翌日の飲用に魔法瓶にうつし、残りと当日の残りをその場で飲む。バーボンを入れて飲んだり、3日に一度はライムを絞ってビタミンを補給した。
 別にマヨラーではないのだが、流しこめるように食べられてカロリーが高く、腹にたまる、栄養も高そう…ということで、このようなメニューとなった。14日間、毎日こればかり食べていたのでしばらくはマヨネーズご飯は食べたくない(想像しただけで胃が重くなる)。ちなみに米はとがずに炊いた。

 

■グレイシャーベイ海況 

 
 ハッキリ言って海はかなり楽。難しいところは特にない。
 瀬戸内海のような内海なので風が吹くと確かに波は出るが、沿岸域を漕ぐ分には特に問題はない。今回の遠征でとくに風でやられたということはなかった。ただし、追い風に見舞われることが多く、ただ単純に運が良かったともいえる。もしあの風力で向かい風だったと思うと、確かにこれほどうまく旅行をすることができなかったかもしれない。
 また、潮汐差がかなりある場所なので、その分潮流の影響はかなり大きい。タイドグラフは絶えずチェックし、潮の動きを把握しておくことがここではかなり重要になる。満ち潮時、引き潮時で潮の流れが変わるほか、反流の影響で本流とは全く逆の潮の流れになっている潮筋もあるので、無駄な体力を消費しないようにしたい。
 上陸は潮の上げ潮時ならともかく、下げ潮時の場合は閉じ込められる可能性があるので、特にファルトボートで旅する人は気をつけた方がいい。
 潮の上げ下げのスピードはかなり早いので、休憩などで上陸する時は要注意。また、ビバーク中に中途半端なところにカヤックを置いておくと漂流してしまうことにもなりかねないので、しっかり潮上帯まで上げるか、舫っておくことを忘れない。基本だが、ここのフィールドでは特に気をつけたい。

 湾の入り口付近ではそうでもないが、氷河が近づくにつれて気温はもちろん、水温も下がってくる。夏とはいえ、水温は間違いなくハイポサーミアになりえる低さなので、気をつけたい。特に雨が降った時など、かなりの量が降るし、氷点下で雪が降るよりも雨の方が体温を奪いやすいので防寒は勿論、防水の支度をしっかりした方がいいかもしれない。雨が多く、朽ちた流木ばかりで乾燥した木はなかなか少ない。氷河の近くにある木は石化して燃やしてはいけないものなので焚き火は(できないことはないが)かなり難しいといえる。
 流れてくる氷塊はほとんど小さいものばかりだが、たまにでかいのがあるので注意。ただ、ファルトだと切られてしまうほど鋭利な物があるかもと心配になるが、それほどでもない。神経過敏に避けているとキリがない状況もあるので、ゆっくり小突く程度で進んでいく分には大丈夫でしょ。かなり巨大な鋭利な部分にハイスピードで突撃したらどうなるかはわからないが…。

 雨が多く、霧が発生しやすいので海峡横断をする時などは要注意。特にWest armに入ってからは大型客船やピックアップ船などが頻繁に通るので意識しておくこと。
 Beardslee Islandsなどの多島群では景色がほとんど変わらず、方位がわからなくなる恐れがあるのでコンパスは必須である。

 ポイントとしてヤバいのは、Mcbride Glacier の入江に入るところが、かなり潮が速い。下げ潮なら問題ないが、上げ潮だと中に入ってから出られなくなる可能性があるので要注意。
 あとは、Young Islandの西の沿岸付近、もしくはこの島とStrawberry Islandとの海峡。ここもかなり潮が速く、渦潮が現れるくらいなので要注意。島は沿岸部を漕いだ方が無難。
 Bartlett coveからLester Island を東から回る時も満潮時の2~3時間じゃないと段差ができるほどの浅さと潮の速さで渡れないので、特に下げ潮時に通る時は無理をしない方がいいと思う。

 あとはまぁ、どうってことない。熊がいる陸の上よりもはるかにカヤックの上の方が安心できることうけあいです(笑)
 とにかく景色がよくて動物が多い。難しいことはないので余裕をもってグレイシャーベイの自然を楽しめればいいと思います。