式根島一周

~東京都 伊豆諸島 式根島 ~

2008831

 


 今年(2008年)5月、GWを利用して先輩夫婦と後輩と4人で式根島旅行に出かけたのだが、この時僕は後輩と二人で式根島をカヤックで一周するつもりだった。ところがおりからの爆風で海は大時化、とてもカヤックでこの風、波、潮流の中を漕いで行くことはできず、時間だけが経過し最終日の午前中なんとかカヤックを浮かべることだけはできた。
 ただ、スプレーカバーを忘れたうえに野伏港から出発してすぐに引き返してくる羽目にあった。とにかく、春の式根島を舐めていた結果だった…!


 8月、今度は大浦キャンプ場でキャンプをしながら仲間内で潜りに行こうという話があがり、これに便乗して5月のリベンジをすることにしたのだ。
 式根島は学生時代、夏休み毎年来ていた島だ。
 伊豆諸島も何回も行っているし、春に海が荒れることは承知の上だった。そして夏は比較的安定した天候が続くことも知っていた。式根島をカヤックで一周するには夏がいいだろうと、前回の反省を含めて考えていたのだった。


 8月29日、東京竹芝桟橋から東海汽船に乗って式根島に向かう。
 あいにくの雨。今年はお盆あたりから日本中で雨が多い気がする。涼しくていいのだが、こうまで雨が降ると海が濁って困る。しかも例年よりも黒潮が外側に蛇行しており、式根島を含む伊豆諸島は水温がかなり低いようだった。ひょっとしたらこれが雨に関係あるのかもしれない…。
 夏の間、東海汽船のフェリーは納涼船になっているために出発時刻は遅く、到着時刻は早い。浴衣姿の女の子が歩いて来る中、カヤックをコロコロ転がしながら竹芝桟橋に向かう。
 待ち合わせていた友人たちと合流し、時間ぎりぎりにフェリーに乗り込んだ。夏休み最後の週末だけあって船内は混んでいたがGWよりはマシだったと思う。
 何はともかくビールを開けて乾杯。久しぶりに合流した友人たちとこれからの島旅を考えながら飲む酒は…美味いんだなぁ~。


 翌日(30日)は天気が悪く、風も強いので潜り。
 ドシャ降りの中、なんとかおかずになる魚を獲っておく。前半組がカンパチのでかいのを獲っていたのでその反身を刺身にし、今日獲った魚をご飯のおかずにして夕食とした。
 
 そしてカヤックで一周しようと考えていた31日。予報通り、天気は見事に回復した。
 前半組と週末のみの参加者が帰った後、カヤックを組み立てて準備する。

 今回持参したのはフェザークラフト、カフナ。
 K1にしなかったのは、単純に重いから。
 やはりコロコロで持ち運ぶには僕の体力ではK1は厳つすぎる!それに走行距離は今回たいしたことないし、カラ船で漕ぐにはカフナで十分だろうと思ったのだ。最近、カフナとK1、どちらもスピードは対して変わらないと思い始めていたし、ある意味試しの意味もあった。
 事実、カフナで良かった。というか、カフナを見直した。この舟は良い舟だよ!組み立てがスゲぇ楽だし。K1ばかり組み立てていたので久しぶりにカフナを組み立てるとメチャクチャ楽です。
 スピードも結構出たし、やはり国内のショートツーリングでは海の厳つさを抜きにしてもカフナが最高です。
 パドルはコーモラントにした。グリーンランドだと潮流の中漕いで行くには効率が悪い気がしたのと、最近自分はアンフェザーよりも若干角度のあるフェザーリングの方が向いていると思い始めたので。30度くらいが力が入りやすい気がします。まぁ、コーモラントは60度くらいありますが、とにかく一気にパワーで漕ぎ切りたいと思った次第です。


 11時10分、大浦出発。
 風は東から吹いていたので最初は向かい風だったが、時計周りで行くことにした。それは潮流を考えると島の南側は追い潮で行きたかったからだ。前日の潜りをやっていた時に午後から潮が東から西に流れるとわかったので、その前の潮どまり、もしくは追い潮に通過できるようにしたかったからだ。仲間と島の南東にある地鉈温泉で12時過ぎに合流するという約束もあった。
 この日の式根島の干潮は11時30分。これから上潮になる計算で、上潮時には西北西方向に潮は流れるという情報なので、しょっぱなは転流するまでの潮止まりのうちに激流地帯の平床も抜けたい所だ。
 島の北側は風波でざわつき、不安定な海面が続いたが漕いでスピードが緩められるほどの影響はなかった。
「犬の首」をまわり、その先にある船でしか行けない「吹きの江」と言う入り江に入る。ちょうど観光客を連れた漁船が出てくるときで、手を振って迎えられる。
 その先を回るとすぐに「泊」についた。式根島の看板的海水浴場、ビーチだ。お約束で写真を撮り、そそくさとあとにする。しかし日曜だからか、ビキニのギャルがいっぱいいて「あー、カヤックなんか漕いでないでおねーちゃんと遊びたいなー」と多少の未練を感じつつ先に進む。
 長堀鼻を越えてボコボコ開いている洞窟に感心していると、あっという間に野伏港が見えてきた。 
「式根島、小さッ!」
 正直、そう思わざるをえないほど次々に知っている場所が出てくる。
 野伏港の桟橋の沖にはたまに恐ろしい潮の流れがあるがこの時はなく、何とか通過。船も接岸する様子もなかったのでサクサク先に進む。
 海面はさっきからざわついたままで、意外に油断もできない。
 GWに漕いだ区間にたどり着いた。
 養殖場前から小浜港にかけては緩い流れがあったが、この時はそれほど気にすることなく通過。そして前回川のように潮が流れていた「平床」が見えてきた。 
「さすがだね…」
 今回も平床の沖にはかなり速い流れがウネウネと波立ち、竜の背中のように式根島と新島の間を流れている。前回は釣り師がたくさんいて沿岸を漕げなかったが、今回は岸際ギリギリを漕ぎ抜け、無事に平床を通過。通り抜けてしまうと、あっという間の区間だった。
 そこから先は島の北側にあった風波、ザワツキがなくなり大きなうねりが入ってくるだけになって漕ぎやすくなった。 
「ヒッコンドウ前」を通過し、大根の間に入る。ここは隠れ家のようになっているのでカヤックで来るとかなり楽しい。ロックガーデンの迷路を漕ぎ抜けるとカヤックの下には色とりどりの魚が泳いでいる。 
「な、なんだありゃ!?」
 一瞬、人の顔みたいなものが目に入った。つ、ついに俺もドザえもんを発見してしまったか…!?そう思いつつも近づいてみると、なんだ、中華街などに売っているただの覆面だった…。なんと紛らわしい浮遊ゴミだ!!
 ここは通り抜けられるのだが、他のシュノーケルをする人たちがいたのでUターンして戻り、石白川海水浴場に上陸、歩いて売店まで行き、パンと牛乳、ビールを購入して出発する。
 

 

 

 
誰ダーッ!こんな紛らわしいの捨てる奴!!
 

 
 モオヤ岩の間を通り抜け、足付港沖を通過し、小さな岬を回り込むと地鉈温泉が見えた。陸から行くと秘境とも思える地鉈温泉だが、海から行くと秘境感はそうでもない。むしろ周りの岩に溶け込んでわかりづらい。
 温泉の入り江に入っていくと、先に歩いて向かっていた仲間が迎えてくれた。ここで小休憩をしたのち、再び出発する。
 ここから先がある意味、式根島一周において一番のお楽しみポイントである。
 地鉈温泉を出発し、大崎を越えて畳根の沖を通過する。予想通り、追い潮になっていて、舟がグングン前に進んで行ってくれる。風も追い風なので何もストレスがない。
 沖には雲をかぶった神津島が見える。
 大きなうねりが磯にぶつかり、なかなか迫力ある光景だ。サラシがそこらじゅうでできている。岩肌の巨大なフジツボが痛々しいが、海の荒さを物語っているようだ。こういう海を漕いでいると何だか妙に楽しい。DVDで見たバンクーバー島西沿岸のカヤックシーンにそっくりだなぁ~と、見慣れた景色なのにカヤックからだと新鮮で、海外の刷り込み映像に例えてしまうと言うのも笑えてしまう。
 絶壁に囲まれた御釜湾(みかわわん)に入る。
 ここまで来ると式根島がすべて見渡せる。本当に小さい島だ。このコンパクトさは尋常じゃない。
 御釜湾の北東部のはじっこに、洞窟があった。かなりでかい。ドーム型に削れた一枚岩があり、それがかなり迫力がある。写真を撮ったが、大きさを比較するものがないのでよくわからないと思う。あーこういう時、単独行はつまらないと思う。
 はしょらずに湾奥を漕いで回っていると小さな入江の先に、これまた小さなビーチが見えた。あれは上陸するしかない!
 波がないのですんなり入れると思ったが、入口が小さく、沖からのうねりが一気に入り込んでくるので結構危険だ。あれ以上のうねりがあったらここは簡単には無理だったろう。しかしなんとか上陸。背後を高い壁に囲まれた、ものすごいプライベートビーチ。水も滴っていたので、いざとなればビバークも可能だろうが、ちょっと天候が不安定な時は嫌かな…(どっちにしろ式根島でのキャンプはキャンプ場以外禁止です)。
 記念写真を撮ったあと、すぐに出発。集中して入ってくる波を乗り越えるのはなかなか面白かった。
 隣りには壁から湯気が出ている!近寄ってみると温泉が岩の割れ目からボコボコと湧き出ているのだった!!式根島はいろんなところから温泉がわいているらしく、ダイビングをしていると海底からも沸いているそうだ。地鉈温泉や足付温泉を考えればここから温泉が出るのも当然か。
 あいにく、結構でかい波が押し寄せてくるので長居は無理だった。
 湾を南下、まっすぐに突き立った鯛房岩との間の水路を通過すると、いよいよ平床に並ぶ難所、モトカタが現れる。
 ここを越えればあとは絶壁区間を漕いで行くだけだがここが式根島でもっとも潮の流れる場所と聞いてちょっとドキドキしていた。
 ところがだ…。
 あれよあれよと漕いでも潮の流れは感じず、あっという間に通過してしまった。どうやら運良く潮どまりに当たったらしい。沖の方に嫌な潮目が見えたが沿岸はたいしたことなく、なんだか本当に通過したのかどうなのか、疑問に思えてしまうほどスンナリ事は済んでしまった。
 そこから先はどっかーん!…っと、切り立った断崖絶壁が続き、ずっと上ばかり見ながら漕いでいたので首が疲れてしまった。
 カンビキの手前あたりまで来ると潮の流れが逆になったようで、多少漕ぐのが億劫に感じたが舟はしっかりと前に進んでいた。風も向かい風だが、苦労するほどでもなく、むしろ涼しくていいくらいだ。
 サヨリとトビウオを足して2で割ったような魚が目の前を飛んだ。初めて見た。
 袴崎を越えると右手に崩れるような崖が見えた。カンビキだ。入江の中には多数のロックガーデンがあり、わざと中に入ってウネウネとフジツボの覆う岩に警戒しながら漕ぎ進む。
 中の浦の沖を通過すると、あっという間に大浦に到着してしまった。
 時間を見ると15時20分。
 あれだけ途中、上陸して遊んだり、休んだりしたのにこんなに早く帰ってきてしまった。周囲12㎞しかないというのは本当のことのようだ。
 

 

 

 

 

 

 

 式根島、非常に面白い場所でした。
 漕ぐ距離自体はとても短いんですが、環境に変化があり、バリエーションがあって面白いです。
 そして、要所要所に難所があり、潮の流れや風向きなどでかなり漕ぐのが難しくなることも前回と今回の件でだいたい予想がつきます。ちょっとしたライン取りの失敗が、致命的な失敗になる可能性もあり、簡単そうに見えてとても神経を使う場所ともいえます。だから、中級者~上級者のポイントと言えると思います。
 ただ、カヤックに乗りなれ、海を読む技術がある人にとってはこのコンパクトさはかなり魅力的な場所だと思います。
 潮の流れる方向、干満時刻、風向きと天気、そしてあまりカヤックでは関係ないと思われる海流(黒潮)の影響も現れるポイントなのでその辺をしっかり押さえれば非常に面白いフィールドだと思いました。

 
参考

◎山と渓谷社(2005)Yamakei sea kayaking 55map

◎式根島で漁師をやっていたコニーにもちょっとだけ情報提供いただきました。